弾道ミサイル 放物線に近い経路(弾道)を飛翔するミサイルの名称。


解説                        総合索引

 地下サイロや自走式発射機、潜水艦などから発射され、放物線軌道を飛翔する長距離ミサイル。
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  弾道ミサイルは、遠く離れた場所にある、敵の弾道ミサイル発射施設、物資集積場、指揮・通信施設、港湾、空港、人口密集地帯などへの攻撃に使用される。


 弾頭には炸薬を内蔵する通常弾頭の他、、化学、生物兵器なども搭載できる。

 大気圏再突入時の速度は音速の6倍以上と、航空機や砲弾などの攻撃手段に比較して、格段に高速なため迎撃は困難である。

 冷戦終結により、大規模な弾道ミサイル攻撃の可能性は低下した。
 しかし、近年は弾道ミサイルの拡散が問題となっており、北朝鮮による弾道ミサイルの開発および、関連技術のパキスタン、リビア、イランなどへの輸出が問題となっている。

 米国も、北朝鮮などの弾道ミサイル開発に危機感を持ち、弾道ミサイル防衛網の配備を急ピッチで進めている。


弾道ミサイルの特徴

  • 放物線に近い飛翔経路

    飛翔経路は、大砲の砲弾と同様、放物線に近いことから「弾道ミサイル」と呼ばれる。最高高度は約100km以上となり、飛翔経路の大半は大気圏外となる。



  • 高速度

    大気圏再突入時の速度は音速の6倍以上、長距離弾道ミサイルでは音速の20倍を越え、PAC-3などの迎撃ミサイルでも、一旦、迎撃に失敗すると、目標を追尾して再度補足することは不可能だ。



                              ※数値は概略値である。Cop

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  • レーダー反射面積は小さい

    再突入体は小型のため、レーダー反射面積は小さく捕捉し難い。





  • 長い射程

    弾道ミサイルの射程は数百km以上のものがほとんどで、射程による分類の一例を挙げる。
     種  別 射  程 加速段階終了時の速度 最高高度 飛行時間
    短距離弾道ミサイル 1000km以下 秒速2km以下 200km以下 8分以内 スカッド
    中距離弾道ミサイル 1000〜5500km 秒速2〜5km 200〜1100km 8〜20分 ノドンムスダン
    長距離弾道ミサイル 5500km以上 秒速5〜7km 1100km以上 20〜35分 テポドン2・ミニットマンV


  • 対処時間は短い

    発射から目標到達までスカッドは約7分、ミニットマンIIIでも約30分と短時間のため、探知から迎撃までの対処時間は短い。


  • 発射装置の位置特定は困難

    自走式発射機、弾道ミサイル搭載潜水艦の位置特定は困難で、事前に発見して破壊することは難しい。


  • 発射時期の予測は難しい

    弾道ミサイルは地下サイロ、自走式発射機、潜水艦などに搭載されており継続的な監視は困難で、発射時期の予測は難しい。

弾道ミサイルの構造

 
 

  • 弾頭または再突入体

    炸薬を内蔵した通常弾頭の他、、化学、生物兵器を搭載する。
     大気圏再突入時の空力加熱(長距離弾道ミサイルでは1000度を超える)、空力荷重等に耐えるため、頑丈な耐熱構造とする必要がある。


     中・長距離弾道ミサイルでは加速段階終了後、命中精度向上のため弾頭部分を切り離す再突入体(RV:Reentry Vehicle)方式が一般的だ。また、複数の再突入体を搭載するタイプや、敵の迎撃レーダー、ミサイルを混乱させるため、オトリやチャフなどを展開するタイプもある。
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  • 誘導・制御部

     慣性誘導方式により、弾道ミサイルの加速度、姿勢、位置などを測定して、所定の飛翔経路に投入するため、推進装置の推力を調整、遮断する。なおGPS(全地球測位システム)、天測航法装置を利用するタイプもある。
     
  • 推進装置(ブースター)

     弾道ミサイルを重力に逆らい上昇、加速するロケット推進装置。推進剤の形態により2種類に分類される。
     
    推進剤形態 推 進 剤 (一例) 利  点 欠  点
    液体推進剤
     (ロケット・エンジン)
    酸化剤 抑制赤煙硝酸
    四酸化二窒素
    高性能
    推力制御可能
    構造が複雑なため信頼性は劣る
    推進剤充填状態での長期間保管は困難
    発射直前に推進剤を充填するため、発射準備に時間が掛かる
    開発・製造・整備コストが高い
    燃料 非対称ジメチルヒドラジン
    ケロシン
    固体推進剤
     (ロケット・モーター)
    酸化剤 過塩素酸アンモニウム 長期間保存可能
    即時発射可能
    構造が簡単で信頼性が高い
    開発、製造、整備コストが安い
     
    点火後の推力制御は困難
    液体推進剤に比べ性能が劣る
    大型ロケット・モーターの製造には高い技術力を要する
    粘結剤 ポリブタジェン末端ハイドロキシル

     中・長距離弾道ミサイルは高速度が求められるため、不要となった推進装置を切り離し、身軽になって加速する多段式(2〜3段式)を採用する。また、空気の極めて薄い高々度を飛翔するため、飛行制御には空力操舵ではなく、ロケット推進の方向を変える推力偏向装置を使用する。


 弾道ミサイルは、ほぼ垂直に発射され、高度数10kmまでは飛翔経路誤差に対して積極的な修正は行われない。これは機体に過剰な空力荷重をかけないため仰角を0とする手法で、ゼロ・リフト・ターン方式または重力ターン方式と呼ばれる。
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 高度が上がると飛翔経路の誘導を開始、所定の速度、方位角、射角、位置、高度に達すると、推進装置を停止、以後は大砲の砲弾と同様、無動力で惰性により飛翔する。燃焼終了時点の速度は、射程や飛翔コースにより変化するが、秒速2〜7km程(音速の6倍〜20倍)である。 

 飛行高度は100km以上のため空気抵抗による減速は少ないが、重力により上昇を止め、最高高度に達した後は降下しながら加速、大気圏に再突入する。この間の飛翔経路を横から見ると放物線に近い形状となる。

 弾道ミサイルの命中精度(CEP)に最も影響するのが、先に述べた推進装置停止のタイミングで、これを如何に正確にコントロールできるかが、命中精度を左右する。米国の保有するミニットマンIII(
射程13000km)の命中精度は120m、北朝鮮のノドン(射程1300km)は2500mとされる。


飛翔経路 大きく3つに区分される

  • 加速段階(ブースト・フェイズ:Boost Phase)

    推進装置に点火して上昇、所定の速度に達し加速を終了するまでの間。時間は1〜5分程。
     推進装置からは大量の赤外線を放出し、再突入体を分離していないため、レーダー反射面積も大きい。オトリやチャフなどの妨害手段も展開しておらず、速度も比較的遅いので迎撃には理想的条件だ。

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  • 中間コース段階(ミッド・コース・フェイズ:Midcourse Phase) 

    加速終了から大気圏再突入直前までの間。最も時間が長く、長距離弾道ミサイルでは約20分間。

     
    中・長距離弾道ミサイルでは、再突入体を分離、オトリやチャフなども展開する。推進装置は停止しているが、与えられた初速により惰性で飛翔する。最高高度は、射程500kmの短距離弾道ミサイルでも高度100km以上、長距離弾道ミサイルでは1000kmを超える。最高高度に達した後は降下を開始、重力により速度を増大させる。

  • 終末段階(ターミナル・フェイズ:Terminal Phase)

    大気圏再突入から目標到達までの間。時間は約1分と短い。

     
    短距離弾道ミサイルでも音速の6倍以上、長距離弾道ミサイルでは音速の20倍を超え、空力加熱により高温となり流星のように輝いて見えるため、赤外線センサーに補足可能だ。また、空気抵抗による落下速度差を利用して、オトリと再突入体の識別もできる。

  

 弾道ミサイルの飛翔経路は、最も遠くに到達できる、最小エネルギー軌道が技術的には望ましい。
 しかし、戦術上の観点から、最高高度を低く抑えて敵の発見を遅らせるディプレスト軌道や、最小エネルギー軌道より高い軌道から、垂直に近い角度で落下させ迎撃を困難にする、ロフテッド軌道を選択する場合もある。

  

 なお、同一のミサイルを、上記3軌道で発射した場合は、最小エネルギー軌道に比べ、ロフテッド弾道、ディプレスト軌道ともに飛翔距離は減少する。

 弾道ミサイルは弾頭を搭載していることを除けば、衛星打ち上げ用ロケットとほぼ同一構造のため、衛星打ち上げ用に転用可能だ。また衛星打ち上げ用ロケットの技術は、弾道ミサイルに転用可能である。

                              2017年11月28日改訂


参考文献

宇宙工学入門 茂原正道 培風館

宇宙航行の理論と技術 河崎俊夫編著 地人書簡
図説 宇宙工学概論 岩崎信夫 丸善プラネット
新版 日本ロケット物語 大澤弘之監修 誠文堂新光社
防衛白書 平成16年度版 
防衛庁
防衛庁ホームページ
ミサイル入門教室ホームページ
ミサイル防衛の基礎知識 小都元 新紀元社

TMD 戦域弾道ミサイル防衛 山下正光・高井晉・岩田修一郎 TBSブリタニカ
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-NINE Jane's Information Group
Missile Defense Agencyホームページ
THEATER BALLISTIC MISSILE DEFENSE Ben-Zion Naveh  Progress in Astronautics and Aeronautics Volume 192 American Institute of  Aeronautics and Astronautics,Inc.

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