スカッド 短距離弾道ミサイルの名称。
解説 総合索引
旧ソ連で開発された自走式発射機搭載型、短距離弾道ミサイル。
【捕捉】
「短距離」とは、射程1万kmクラスのICBM(大陸間弾道ミサイル)に比較して射程の短い、射程1000km以下の弾道ミサイルをさす。 |
スカッドは第二次世界大戦後、ドイツのV2ミサイルの技術を元に開発に着手、1955年に配備を開始した。
旧ソ連の制式名称はR-11、R-17。NATO(北大西洋条約機構)での呼び名はSS-1
Scudスカッド。ロシアでは既に現役を退いている。しかし、旧東側諸国、中東、アフリカ、北朝鮮などでは、現在でも第一線兵器である。生産数は7千発以上、短距離弾道ミサイルのベストセラーだ。Copyright
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イラン・イラク戦争、湾岸戦争等でも、スカッドおよび改良型のアル・フセインが使用された。
スカッドは技術的には、既に旧式兵器でCEPは1000m以上と、ピンポイント攻撃には向かないが、都市や物資集積場などの攻撃に使用され、核、生物・化学兵器を搭載すれば相手方をパニックに陥れることも可能で、心理的効果は大きい。
スカッドの構造は、先端の弾頭部分に高性能炸薬、核、生物、化学兵器などを搭載する。
ただし、スカッドに搭載可能な小型・軽量の核兵器開発には、高度な技術力を必要とし、北朝鮮等の技術力では、実用化までには時間を要すると推測する。
また生物・化学兵器を搭載する場合には、適切な高度で、これを散布する近接信管や、散布装置の開発は不可欠である。
さらに、これらの兵器を使用した場合、相手方から報復として、同様の攻撃を受ける可能性もあり、使用には慎重にならざるを得ない。湾岸戦争時、イラクは生物・化学兵器を搭載したスカッド(アル・フセイン)を保有していたが、米国などからの核兵器による報復を怖れ、使用しなかったとされる。
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弾頭部分後方は慣性航法装置や自動操縦装置などを内蔵する誘導部分となっている。この後ろはケロシン(灯油)または、UDMH(Unsymmetrical
Dimethyl Hydrazine:非対称ジメチルヒドラジン)などの燃料タンクと、酸化剤IRFNA(Inhibited
Red Fuming Nitric Acid:抑制赤煙硝酸)のタンクを持つ液体推進剤ロケットである。
UDMHは引火性が高く、有毒である。酸化剤のIRFNAも、毒性が強く、金属を腐食する。旧ソ連製スカッド・ミサイルでは、推進剤注入状態でも最大90日間は保管可能とされる。
タンク後方は燃料と酸化剤を混合して噴射するターボ・ポンプと、これを燃焼させるロケット・エンジンである。後部端にはグラファイト(黒鉛)製ベーンが取り付けられ、推力偏向方式により飛行方向を制御する。外側には安定翼4枚が取り付けられる。
スカッド・ミサイルはTEL(
Transporter-Erector-Launcher vehicle運搬・起立・発射車輌)と呼ばれる自走式発射機MAZ543などに搭載され、戦場を移動する、この位置を特定して攻撃することは困難である。
発射指令を受けると、ミサイルを垂直に起立させ、発射方向を調整、機能確認などを行う。この間、約1時間を要し、敵からの攻撃に弱い状態となる。なおスカッド・ミサイルは固定式発射機からでも使用可能だ。 湾岸戦争ではペトリオット・ミサイルによる迎撃を混乱させるため、ほぼ同時に数発のスカッド・ミサイルを発射した。Copyright
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発射されると事前にプログラムされた目標に向け、飛行方向、速度を調整、所定の条件に達するとロケット・エンジンを停止させる。このタイミングが命中精度に大きく影響する。この後は、与えられた運動エネルギーにより弾道飛行して目標に向かう。ICBMなどでは加速段階 終了後、弾頭部分を切離すが、スカッド・ミサイルでは役目を終えた推進装置と、弾頭部分は一体のまま飛行する。このため再突入時、空気抵抗により弾道に誤差を生じる場合や、空中分解する例が湾岸戦争で報告されている。
弾道飛行の最高高度は約100km、ミサイルは目標に向け毎秒1400m(マッハ4)以上の速度で落下する。高速度で落下してくるスカッド・ミサイルの迎撃は困難で、THAAD、PAC-3などの高性能迎撃ミサイルを必要とする。
スカッド・ミサイルには、これをコピーしたものから、弾頭を軽量化して射程を延ばしたタイプや、スケールアップしたノドンなどがあり、代表的なものは以下の通り。
名 称 |
スカッドA
R-11 |
スカッドB
R-17 |
スカッドC |
スカッドD |
全 長m |
10.3 |
11.25 |
← |
12.29 |
弾体直径m |
0.88 |
← |
← |
← |
発射時重量kg |
5400 |
5900 |
6400 |
6500 |
搭載弾頭 |
高性能炸薬
核兵器50kt |
高性能炸薬
化学兵器
核兵器5-70kt |
高性能炸薬 |
高性能炸薬
化学兵器
核兵器 |
弾頭重量kg |
950 |
985 |
600 |
985 |
最大射程km |
190 |
300 |
550 |
300 |
CEPm |
3000 |
450 |
700 |
50 |
備 考 |
燃料にケロシン(灯油)を使用 |
燃料を非対称ジメチルヒドラジンに変更 |
弾頭を軽量化して射程を延長 |
デジタル情景照合装置を搭載してCEPを向上 |
名 称 |
アル・フセイン |
スカッド改B |
スカッド改C |
スカッドER |
全 長m |
12.46 |
10.9 |
← |
12.8 |
弾体直径m |
0.88 |
← |
← |
1.02 |
発射時重量kg |
6400 |
5840 |
6200 |
9230 |
搭載弾頭 |
高性能炸薬
生物・化学兵器 |
高性能炸薬
化学兵器
通常型子弾 |
高性能炸薬
化学兵器
通常型子弾 |
高性能炸薬
化学兵器
核兵器
通常型子弾 |
弾頭重量kg |
500 |
985 |
700 |
500 |
最大射程km |
630 |
300 |
500 |
1000 |
CEPm |
1000〜3000 |
450 |
1000 |
2000 |
備 考 |
イラクによるスカッドB改良型
|
北朝鮮による改良型 |
← |
北朝鮮による派生型。弾頭および構造軽量化、推進剤タンク延長により射程を伸ばす |
2017年 3月10日改訂
性能・諸元
スカッドC
全 長:11.25m
弾体直径:0.88m
重 量:6400kg
弾頭重量:600kg
最大射程:550km
参考文献
検証日本弾着 石川潤一、岡部いさく、熊勢伸之 扶桑社
新版 ミサイル事典 世界のミサイル・リファレンス・ガイド 小都 元 新紀元社
大図解 世界のミサイル/ロケット兵器 坂本明 グリーンアロー出版
ミサイル事典 小都元 株式会社新紀元社
ミサイル防衛の基礎知識 小都元 新紀元社
Flashback to the Past : North Korea's "New "Extended-Range Scud By
Markus Schiller and Robert H.Schmucker November 8,2016 38 NORTH
Information Paper Iraq's Scud Ballistic Missiles U.S DoD
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-SEVEN Jane's Information Group
Missile Defense Agencyホームページ
Scud Ballistic Missile and Launch Systems 1955-2005 Steven J Zaloga OSPREY
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