ペトリオット(またはパトリオット) 航空機、弾道ミサイルなどを迎撃する防空システムの名称。
PATRIOT はPhased Array Tracking Radar for Intercept on
Targetの頭文字を組み合わせた名称。日本語に訳せば「目標迎撃のためのフェーズド・アレイ追跡レーダー」
解説 総合索引
米国陸軍により開発された長距離地対空ミサイル防空システム。制式名称はMIM−104Patriot
Low−to High‐Altitude Air Defence System(低空から高空までをカバーする防空システム)と呼ぶ。Copyright (c)2002 Weapons School All rights reserved.
強力な電波妨害の下、高高度から低高度まで、高速で侵攻する機動性の高い航空機の同時攻撃に対処するため開発された広域防空システムだ。
ペトリオット防空システムは、ナイキやホークなど従来型地対空ミサイルに比べて、基本構成要素である中隊の人員は、およそ2分の1、装備レーダーは1基と、コンパクトな編成となっている。
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ペトリオットの開発は1961年に開始された。航空機はもちろん弾道ミサイルまで、対処する野心的な計画であった。しかし、技術的・財政的な問題から、弾道ミサイル対処能力は見送られ、計画の見直しなどから、開発は長期に渡り、量産型ミサイルが配備されたのは1984年だった。
湾岸戦争ではサウジアラビア、イスラエルなどに配備され、スカッド(アル・フセイン)ミサイルの迎撃に成功した。しかし、弾頭が航空機を対象とした爆風・破片タイプのため、目標を完全に破壊することはできず、弾道ミサイルが原形のまま落下したり、破片が地上に降り注いで被害を与えた。また、スカッド・ミサイルは大気圏再突入時の空気抵抗で、弾体がバラバラとなり、オペレーターは、これを何発ものミサイルが飛来したと判断、全ての残骸に向けて、ペトリオット・ミサイルを発射した例もある。
ペトリオット防空システムを構成する主な装置を解説する。
- ペトリオット・ミサイル
ミサイルの構造は4つ部分により構成される。先端はセラミック製レドームで、パッシブ・モノ・パルス・シーカーやINS(慣性航法装置)などを内蔵する誘導部分。この後方が爆風・破片炸薬(90kg)を内蔵する弾頭部分となっており近接信管により起爆される。弾頭部分の後ろはTX-486固体推進剤ロケット・モーターで、12秒間燃焼して推力10910kgを発生する。燃焼終了時の速度はマッハ5となり、最大30Gの機動が可能だ。最後部にはロケット・ノズルと飛行制御装置、データ・リンク用のアンテナが取り付けられ、外側に4枚の操舵翼を装着する。ミサイルは箱型輸送用コンテナー兼発射筒に収容され、前線部隊での整備は不要だ。Copyright (c)2002 Weapons School All rights reserved.
発射されたミサイルは事前にプログラムされたコースを飛行、レーダーに捕捉されると、最も効率のよい飛行経路を指示される。最大射程は70km以上。目標に接近すると反射レーダー波をパッシブ・モノ・パルス・シーカーで受信。このデータをデータ・リンク装置で地上に送る。ECS(射撃管制装置)はデータを処理してミサイルに最適な飛行コースを指示する。これをTVM(Track
Via Missileミサイル経由による追跡)誘導方式と呼ぶ。利点はレーダーからの距離が離れるに従いレーダー追尾精度が低下するのを、目標に接近したミサイルからの情報で補うところにある。また、電波妨害や囮(おとり)などへの対応はECSの高性能処理装置が担当するため、ミサイル本体の誘導装置を簡素化できる。
- AN/MPQ‐53 レーダー装置
レーダ装置は、4種類のアンテナにより構成される。
■主アンテナ素子群
ほぼ円形に配置された5161個のフェーズ・シフター(位相変換器)と呼ばれるアレー(アンテナ素子)集合体で構成されるフェーズド・アレイ・レーダー。
デジタル・コンピューターにより各素子から発射される電波の位相を変化させ、電子ビームを望む方向にスキャンさせる。従来型の機械式走査レーダーに比べ、走査速度は、桁違いに速く、同時・多数飛来する目標にも対処可能だ。
捜索、追跡、目標照射と、ペトリオット・ミサイルの追尾・誘導を、時間分割方式で行い。最大32方式のレーダー・ビームを形成する。
使用される周波数はCバンド帯(4-6GHz)で、周波数をランダムに変化させ妨害・探知を困難にする。
およそ100個の目標を補足して、最大9発までペトリオット・ミサイルを誘導可能である。
捜索距離は、目標の高度およびレーダー反射面積等により変化するが、最大で180km。水平方向の捜索範囲はレーダー中心線から左右45°、追跡の場合は左右60°となり、これ以外の範囲は死角となるため、運用の際には、脅威の飛来する方向を的確に予測してレーダーを設置する必要がある。通常ペトリオット中隊は単独で配備されるのではなく、大隊として運用され、数個の中隊が協力して指定された地域の防空を行なう。
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なおレーダー作動中、前方120m以内への立ち入りは人体への電波障害防止ため禁止される。
■敵味方識別装置アンテナ
主アンテナ素子群の補足した目標が、友軍機かどうかを質問する信号を送信し、目標から所定の応答があれば友軍機と判断する。応答が無い場合は、不明機もしくは攻撃目標と判断される。
■TVA受信アンテナ
ペトリオット・ミサイルからの目標情報を受信し、射撃管制装置に伝達する。
■サイドローブ・キャンセラー
妨害電波到来方向の感度を意図的に下げ、電子妨害効果を低減する。
-
M901 発射機
ペトリオット・ミサイル・コンテナー4基を装備する。15KW発電機1台と、ECSからの指令、および発射機の状況報告のため光ファイバーとVHF秘話データ・リンク装置を持つ。無人で運用され、発射時のバックブラストによる死傷事故防止のため、90m以内は立ち入り禁止となる。中隊は5−8基の発射機を装備する。
- AN/MSQ‐104 ECS(Engagement
Control Station)射撃管制装置
ペトリオット中隊の中核システム。わずか3人のオペレーターにより、レーダーを操作して、捜索、追跡、識別を行い、交戦順序を決定する。交戦は全自動、半自動、手動モードを選択できる。使用する発射機を指定してVHF秘話データ・リンクにより必要なデータを送信する。ECSは最大16基の発射機をコントロールできる。
ミサイル発射後はレーダーでミサイルを補足、効率の良い飛行コースを指示する。最終段階では、ミサイルからTVMデータ・リンク装置を通じて、目標情報がECSに送られる。ECSは、この情報を処理して、ミサイルに飛行コースを指示する、地上にあるミサイルの頭脳とも言える。
- AMG(Antena Mast Group)
アンテナ・マスト・グループ
伸び縮み身可能なアンテナ・マストを持つ通信中継装置。データ・リンク2系統、音声4系統、合計6系統の通信系統を持つ。最大50km以内の、大隊射撃指揮所ICCとの通信を行なう。
- AN/MSQ‐24 電源車
150KW発電機2台を、過熱防止のため交互に運転して、レーダーとECSに電力を供給する
- ICC(Information and Co-ordination
Central)情報統制中枢
中隊ECSを統制する大隊射撃指揮所。最大6個中隊を指揮、上部防空組織や隣接するペトリオット大隊との連絡・調整機能も有する
この他、ミサイル・コンテナー再装填装置付運搬車輌、整備車輌などにより構成される。なお、ペトリオット中隊には、死角となる近距離防空のためスティンガー短距離空対空ミサイルも配備される。
PAC(Patoriot Advanced
Capability)-1・2・3
ペトリオット防空システムは、戦術弾道ミサイル、巡航ミサイルなどの新たな脅威に対処するため、ハード・ソフト両面から改良を続けている。その主なものはPAC(Patoriot Advanced Capabilityペトリオット先進能力「パック」と読む)と呼ばれ、3段階に分かれている。
PAC‐1・2はレーダー装置のソフト・ウエア改良とミサイルの弾頭・近接信管などの改良で外観の大きな違いはないが、PAC‐3ではレーダー装置、指揮・通信能力の改良と、ミサイル本体も新規開発された。Copyright (c)2002 Weapons School All rights reserved.
主な改良計画は以下の通り
名 称 |
PAC-1 |
PAC-2 |
PAC-3
|
基本型 |
GEM(Guidence
Enhanced Missile)
|
レーダー |
ソフト・ウエアを改善、高仰角捜索機能を獲得して、天頂までも捜索可能となる
|
小型目標捕捉能力向上のためソフト・ウエア改善
|
探知距離増大
弾頭と破片の識別可能に
信号処理能力向上 |
AN/MPQ-65レーダー
進行波管(レーダー波送信機)1基追加
探知距離を延ばし、目標識別能力向上
|
ミサイル
|
弾頭 |
90kg爆風・破片炸薬コンポジションB |
高速で落下してくる弾道ミサイルに対処するため、弾頭を改善して殺傷能力を強化
近接信管は前方感知能力と反応時間を改善
|
近接信管の感度アップ
|
弾体の運動エネルギーで戦術弾道ミサイルに対応。さらに225gのタングステンペレットを24個放出して巡航ミサイルや航空機への殺傷力を増大
|
誘導方式 |
指令誘導
+TVM |
←
|
←
|
指令誘導+アクティブ・レーダー・ホーミング(最終段階)
|
ロケット・モーター
|
TX-486固体推進剤ロケット・モーター |
←
|
高出力固体推進剤ロケットモーターと軽量複合素材を使用、有効射程を30%以上改善
|
新型高出力固体推進剤ロケットモーター、外殻に軽量複合素材を使用
|
シーカー |
パッシブ・モノ・パルス |
←
|
内部雑音低減してシーカーの感度を向上
|
アクティブ・パルス・ドップラー・レーダー・シーカーに変更
|
全長m |
5.3 |
←
|
←
|
5.2
|
弾体直径m |
0.41 |
←
|
←
|
0.25
|
翼幅m |
0.92 |
←
|
←
|
0.48
|
重量kg |
914 |
←
|
900
|
315
|
最大射程km |
70km以上 |
←
|
←
|
20
|
最大射高km |
24 |
←
|
←
|
15km以上
|
最大速度 |
マッハ5 |
←
|
←
|
不明
|
備考 |
短距離弾道ミサイル迎撃能力を獲得。生産中止
|
湾岸戦争では限定的ながらスカッド・ミサイルを迎撃
|
PAC-2GEMと呼ばれる改良型
|
従来型ペトリオットより細身のため、1つのコンテナーに4発収容可能
180個の姿勢制御用小型固体推進剤スラスター装備、機動性を向上
PAC-2GEMとの混合配備
|
ペトリオット防空システムは米国の他、イスラエル、ドイツ、サウジアラビア、オランダ、台湾、クエイト、ギリシャ、日本などでも採用されている。
ペトリオットの改良は継続されており、PAC-3改良型PAC-3MSEの配備、他の防空システムと連携し広域防空を担うネットワーク型防空システムIBCS(Integrated
Air and Missile Defense Battle Command System:統合航空・ミサイル防空戦闘指揮システム)の一翼を担う計画も進行中だ。
また、限定された範囲(120度方向)しか、カバー出来ない現在のレーダーに替わり、全周捜索可能なLTAMDS(Lowr
Tier Air and Missile Defense
Sensor:低層航空・ミサイル防衛センサー)レーダーの配備も予定されている。
2023年 3月 2日 改訂
性能・諸元
MIM-104ペトリオットPAC-1ミサイル
全 長:5.3m
全 幅:0.92m
弾体直径:0.41m
重 量:914kg
炸薬重量:90kg
最大速度:マッハ5
最大射程:70km以上
最小射程:3km
最大射高:約24km
最低射高:60m
メーカー:レイセオン社他
参考文献
雑誌 丸 2001年9月号 進化型地対空誘導弾「ペトリオット」の実力 潮書房
航空自衛隊ホームページ
ザ・マーチ32号ペトリオット 地対空ミサイル 藤木平八郎 マーチ出版
Air Defence Systems and Weapons World AAA and SAM Systems in the 1990s CHRISTOPHER CHANT
BRASSEY'S DEFENCE PUBLISHERS
Field Manual No.3-01.11 Air Defense Artillery Reference Handbook U.S Army
Field Manual No.3-01.85 PATRIOT BATTALION AND BATTERY OPERATIONS U.S Army
Jane's LAND-BASED AIR DEFENCE 2001-2002 Jane's Information Group
Jane's RADER AND ELECTRONIC WARFARE SYSTEMS 1999-2000 Jane's Information Group
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-SEVEN Jane's Information Group
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