スティンガー 人員携行 地対空ミサイルの名称


解説                            総合索引
 1人で運搬、肩に担いで発射可能な赤外線誘導 低高度・短距離 地対空ミサイル。制式名称FIM−92スティンガー低高度地対空ミサイル・システム。
 
攻撃対象は低空を高速で飛行する攻撃機、ヘリコプター、輸送機、無人機など。旧ソ連のアフガニスタン侵攻ではイスラム派ゲリラに供与され、攻撃ヘリコプターや輸送機など250機以上を撃墜しており、実力は折り紙付だ。米国の他、日本、イギリス、ドイツ、イタリア、フランスなど29ヶ国で使用されている。

 スティンガーは、レッド・アイの後継兵器として米陸軍とジェネラル・ダイナミックス社(現:レイセオン社)により1972年に開発開始、1979年から量産している。目標の後方からしか、ミサイルを発射できなかったレッド・アイに比べ、優れた、赤外線シーカー(探知機)により、全方向から交戦が可能となり、射程・高度も改善され、運用上の柔軟性を向上させた。また、従来、肉眼に頼っていた目標識別に付いては、IFF(敵味方識別)装置を追加した。

 スティンガーの利点は軽量・小型、1人でも携行、操作可能である点だ。緊急時、航空機で紛争地域に投入される空挺部隊などに、限定的ながらも防空能力を与える。
 
従来、敵攻撃機、戦闘ヘリに襲撃された場合、まぐれ当たりを期待して自動小銃や機関銃などを撃つしかなかった歩兵に、高い命中精度を持つ防空兵器を与えた意義は大きい。敵軍用機も不用意に攻撃をかければ、撃墜される可能性があるため、攻撃には慎重にならざるを得ない。
 
また、通常の対空兵器の様にレーダーを使用しないため、レーダー警戒装置を作動させず、ミサイル発射を気付かれ難いのも利点の一つだ。
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しかし、スティンガーには制約も多い。肉眼で目標を補足するため、天候などの自然条件に左右される。射程は最大8000m程で、射程外からスタンド・オフ兵器を投下する攻撃機などには対抗できないこと。また、最大射高(ミサイルが到達できる高度)も3500m程なので、これ以上の高度を飛行する目標には無力である。コソボ紛争やアフガニスタンでの報復軍事行動でも、スティンガーなどの人員携行 地対空ミサイルの脅威を無くすため、攻撃機は高度5000m以上から爆弾などの兵器を投下した。
 これらの制約を補うため、中・長距離対空ミサイルのホークやパトリオットと組合わせて、運用されるケースが一般的だ。

 スティンガー・ミサイルはミサイル本体の収納されたコンテナー、グリップ・ストックと呼ばれる再利用可能な発射機、これにケーブルで接続されたIFF装置から構成される。
 
コンテナーはグラス・ファイバー製で密封されており、長期間の保管に耐える。グリップ・ストックはミサイル発射引金、IFFアンテナおよび発射関連装置と取替え可能なBCU(シーカー冷却用のアルゴンガスおよび電源装置、持続時間最大45秒)とIFF本体を接続するコネクターがある。IFF装置本体は目標の敵味方識別を電子的に行なう装置で、質問コードを発信して、目標から定められたコードの返答があれば味方と判断する。この情報は射手に音声信号として伝達され、肉眼による目標識別を助ける。

 ミサイル本体の構造は、先端部分に赤外線シーカー。この後方に誘導および飛行制御部分があり、外側には発射後展開される操舵翼が装備される。なお、B型からは赤外線と紫外線センサーを併用したシーカーを使用して、フレアーなどの赤外線デコイに対抗している。さらに高い目標識別能力を持つ画像赤外線シーカーも開発中だ。
 飛行制御部分後方は弾頭部分となっており、爆風・破片炸薬1kgを遅延着発信管により起爆する。なお目標を外したミサイルが付近に展開する味方部隊に落下するのを防止するため、発射後15-19秒経過するとタイマーにより自爆する。

 
弾頭部分の後ろはデュアル・スラスト固体推進薬ロケット・モーターが内蔵され、外側には発射後展開される安定翼が取り付けられている。最後部にはブースターが装着されており、0.5秒間燃焼してミサイルを9mほど撃ち出し分離する。ここで初めてロケット・モーターに点火され、22Gで加速される。これはロケット・モーターの火炎が、射手に掛からないための配慮だ。発射後、ミサイルは自律して目標を追尾するので、誘導の必要は無い。

スティンガー・ミサイルの代表的なタイプは以下の通り

タイプ FIM−92A FIM−92B FIM−92C FIM−92D
ブロック1 ブロック2
シーカー 赤外線 赤外線
紫外線
 ←  ← 画像赤外線
弾頭 爆風・破片炸薬1kg  ←  ←  ← ← 
備考 アフガニスタンで活躍 マイクロ・プロセッサー制御による、スティンガーPOST(パッシブ光学シーカー技術)を採用してフレアーなどに対抗 スティンガーRMP(再プログラム可能マイクロ・プロセッサー)により誘導プログラム書替え可能 UAVや巡航ミサイルなどの小型目標に対応

ラインバッカー・アベンジャーなどの車載タイプや戦闘ヘリに搭載される空対空タイプに使用

FPA(フォーカル・プレーン素子)画像赤外線シーカー採用

開発中

 スティンガー・ミサイルには人員携行 地対空型だけでなく、様々な派生型が存在する。HMMWV(高機動多目的装輪車輌)にスティンガー・ミサイル・ポッドを搭載したアベンジャー野戦防空システム、ブラッドレー戦闘車にスティンガー・ミサイル・ポッドを搭載したラインバッカーなどの車輌搭載型の他、戦闘ヘリ等に搭載される空対空型など様々で、今後さらに活躍の場は広がっていくだろう。

          2003/1/01改訂


性能・諸元

FIM−92A スティンガー・ミサイル
全長:1.52m
重量:10.1kg
直径:0・07m
最大速度:マッハ2.2
誘導方式:赤外線ホーミング
炸薬重量:
爆風・破片炸薬1kg
最大射程:8000m
最小射程:200m
最大射高:3500m
価格:約460万円


参考文献
大図解 最新兵器戦闘マニュアル 坂本明 グリーンアロー出版
大図解 世界のミサイル/ロケット兵器 坂本明 グリーンアロー出版
United States Marine Corps Fact File
Low Altitude Air Defense Handbook MCWP 3-25.10 United States Marine Corps
Jane's LAND-BASED AIR DEFENCE 2001-2002 Jane's Information Group
Air Defence Systems and Weapons World AAA and SAM Systems in the 1990s CHRISTOPHER CHANT  BRASSEY'S DEFENCE PUBLISHERS 

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