ムスダン 中距離弾道ミサイルの名称。


解説                       総合索引  

 北朝鮮が開発した中距離弾道ミサイル。ムスダンは、本ミサイルが最初に確認された付近の地名:舞水端里(ムスダンリ)から米国により付けられた名称。BM-25、ノドンB、ミリム、テポドンXとも呼ばれる。北朝鮮では「ファソン(火星)10」と呼ばれている。
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  北朝鮮は、旧ソ連の弾道ミサイルスカッドや、その派生型であるノドンなどの、スカッド系弾道ミサイルを開発して来た。これに対し、ムスダンは、旧ソ連が1968年から配備した潜水艦搭載型 中距離弾道ミサイルSS-N-6(R-27)を基礎としており、スカッドとは別系統の弾道ミサイルである。


 
SS-N-6(R-27)は潜水艦搭載型であるため、燃料・酸化剤タンク仕切り板の一体化、および、ロケット・エンジンを燃料タンクに埋め込むなど、省スペースを意識した複雑な構造となっており全長9.7m、直径1.5mである。

 
これに対してムスダンは、直径は同じ1.5mであるが、全長は12.5mと2.8m長い。これは、北朝鮮の技術力でも製造できる簡易な構造とし、射程を伸ばすため、燃料・酸化剤タンクを延長した為で、重量はおよそ19トンとされる。



 当初は、本ミサイルの潜水艦搭載型がKN−11と見られていた。しかし、2016年4月23日の発射試験画像から、KN−11は固体推進剤を使用しており、本ミサイルとは別系統のミサイルであることが判明した。

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 ムスダンの開発目的は、ノドンを上回る射程を有する、実戦使用可能な中距離弾道ミサイルの開発である。開発には、ロシア人技術者も関与しており、2003年から配備を開始、数十発を実戦配備しているとされる。


 
最大射程は2500kmを越えると推定されており、沖縄、グアム島も攻撃可能となる。CEPは2000m以上と、ピンポイント目標の攻撃には向かないが、東京などの大都市攻撃には充分な精度だ。ただし、2016年中、8回実施した発射試験では、6回目以外は全て失敗しており信頼性は低い。 

 
 たったの400km?
 
 
 2016年6月22日、午前8時3分頃、北朝鮮東岸から北東に向け発射(通算6発目)されたムスダンは、最高高度1000kmを越えた後、直線距離で約400kmを飛翔し、日本海に落下した。 

 

  
 飛翔距離は400kmと、本来の射程2500kmには遠く及ばない。しかし、注目すべきは最高高度が1000kmを越えている点だ。

 射程2500kmの中距離弾道ミサイルでは、飛翔距離を稼ぐ、最小エネルギー軌道を選択する場合、最高高度はおよそ600kmである。これに対して、今回は最高高度1000kmを越えていることから、発射角度を大きくして飛翔距離を犠牲にした、ロフテッド軌道を選択したと考えられる。

  今回の発射を、最小エネルギー軌道で飛翔させたと仮定すると、飛翔距離は2000kmを越え、失敗続きだったムスダンは、初めて、その実力を示したことになる。

 ムスダンの構造に付いては、北朝鮮からの公式情報はなく、以下はWeapons Schoolの推測である。

 先端は、再突入体(弾頭)となっており、650kgの高性能炸薬、生物、化学、兵器などを搭載できる単一弾頭である。北朝鮮は、弾道ミサイルに搭載可能な、小型・軽量 核兵器を開発したと発表しているが、北朝鮮の技術レベルから判断すると疑問点も多い。
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 再突入体 後方は慣性航法装置、自動操縦装置などを内蔵する誘導部分である。この後方は、
燃料のUDMH(Unsymmctrical Dimethyl Hydrazine:非対称ジメチルヒドラジン)タンクと、酸化剤である四酸化二窒素タンク、燃料と酸化剤を混合して噴射するターボ・ポンプ、および主ロケット・エンジン1基を内蔵する。飛行制御は、2基のバーニア・エンジンによる推力偏向により実施される。ミサイル後部には格子状安定翼8枚が装着されており、発射前に展開される。o

 ムスダンは自走式起立発射装置に搭載され、発射指令を受けると、ミサイルを垂直に立て、推進剤 注入、機能確認などを行う。なお、推進剤は事前注入も可能である。


 
発射後は、事前にプログラムされた目標に向け、飛行方向、速度を調整、所定の条件に達すると、ロケット・エンジンを停止させる。この後は、再突入体(弾頭)を分離、与えられた運動エネルギーにより、弾道飛行して目標に向かう。最高高度は500kmを超え、大気圏再突入時の速度は秒速約4km(音速の約12倍)以上である。高速度で落下してくる再突入体の迎撃は困難で、統合された弾道ミサイル防衛システムを必要とする。



 

                              2017年 6月 5日 改訂


性能・諸元

 ムスダン BM-25 

全   長:12.5m
弾体直径:1.5m
重   量:約19トン
弾頭重量:650kg
射      程:2500km以上

 C  E  P:2000m以上


参考文献

2016年の北朝鮮による核実験、ミサイル発射について 防衛省
宇宙航行の理論と技術 河崎俊夫編著 地人書館 
北朝鮮による弾道ミサイルの発射について 平成28年6月22日 防衛省

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NORTH KOREA DISPLAYS BALLISTIC MISSILES DURING MILITARY PARADE, some for first time WMD Insights Issue16 June Rocket Propulsion Elements Seventh Edition GEORGE P.SUTTON/OSCAR BIBLARZ A Wiley-Interscience Publication JOHN WILEY & SONS,INC.
Russian Strategic Nuclear Forces Oleg Bukharin他 The MTI Press

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THE NORTH KOREAN BALLISTIC MISSILE PROGRAM Daniel A. Pinkston February 2008 Strategic Studies Institute United States Army War College

Three(or Four) Strikes for the Musudan? John Schilling  38 NORTHホームページ

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