火星17 長距離弾道ミサイルの名称


解説                    総合索引  

 北朝鮮にて開発中の、自走式 起立発射機搭載型 2段式 大型長距離弾道ミサイル

 
火星17は、2020年10月の軍事パレードで、その存在が明らかとなった、全長約26m、直径約2.6mの大型ミサイルで、自走式起立発射機搭載型ミサイルとしては世界最大である。 最大射程は15000km以上と推測され、米国全土を攻撃可能だ。
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 火星17のCEP(半数必中界)は5km以上と、ピンポイント目標の攻撃には向かないが、大都市攻撃には十分な命中精度だ。弾頭重量は1.5トンで、通常の高性能炸薬では破壊力は限定される。しかし、兵器などの大量破壊兵器を搭載すれば、目標に大きな損害を与え得る。



 2022年11月18日の発射試験では、平城近郊から発射され、最高高度は6000kmを超え、距離 約1000kmを約69分間、飛翔し日本海に落下した。
 この軌道は発射仰角を大きく取り、飛翔距離を犠牲して、最高高度を稼ぐロフテッド軌道と呼ばれる。これは太平洋に落下させた場合、米国を過度に刺激する事を避けた為と推測する。

 なお、火星17は、今回の発射以前にも今年2月27から数度発射を繰り返した。しかし、本来の性能を発揮できない結果となっており、信頼性を高めるため、今後も発射試験を繰り返す可能性はある。 

 火星17の構造に付いては、北朝鮮政府からの公式情報は無く、以下はWeapons Schoolの推測である。
  
 先端は、空気抵抗を減らし、空力加熱から弾頭を守るシュラウドに覆われている。弾頭は、1個もしくは複数の高性能炸薬、兵器弾頭などを搭載できる。また、シュラウド内部には敵ミサイル防衛システムを混乱させるための囮も搭載される。この後方は慣性航法装置、自動操縦装置などを内蔵する誘導制御部となっている。


弾頭は?

一部報道では、弾頭は複数個別目標再突入体(
MIRV:Multiple Independent-tragetable Re-entry Vehicle)とする記事も見受けられる。しかし、これには各弾頭を所定の位置、高度、速度、姿勢で分離する搭載バスの姿勢制御技術が欠かせない。人工衛星の姿勢制御すら、ままならない北朝鮮の技術レベルではMIRVの実用化は難しいと考える。

但し、低い命中精度を補う為、同一目標に対して複数の弾頭をほぼ同時に分離する複数再突入体(MRV:Multiple Re−entry Vehicle)を使用する可能性はある。

 誘導制御部の後ろは、第2段となっており、燃料のUDMH(Unsymmctrical Dimethyl Hydrazine:非対称ジメチルヒドラジン)タンク、酸化剤である四酸化二窒素タンクと、火星14の第1段に使用されているロケット・エンジン1基と、ムスダンに使用されていたバーニア・エンジン2基を搭載する。

 この後方は、第1段、第2段を接続する中間ステージで、第2段ロケット・エンジン・ノズルと分離機構を収納する。

 2022年3月に発射された火星17と、同年11月18日に発射された火星17の画像を比較すると、第1段の長さが短くなり、第2段との中間ステージが延長されている。

 これは、第2段推力増加のため、従来の
ムスダンに使用されていたバーニア・エンジン2基から、火星14の第1段に使用されている主エンジン1基に変更、推進剤タンク、エンジンおよびノズル部分の長さを延長した結果であると推測する。

 
この後は、第1段で、燃料UDMH(Unsymmctrical Dimethyl Hydrazine:非対称ジメチルヒドラジン)タンク、酸化剤である四酸化二窒素タンクと、旧ソ連製R-36(SS-9)弾道ミサイルに使用されていたRD-250エンジン4基(液体推進剤をエンジン内に噴射するターボポンプ1基をエンジン2基で共有)を搭載しており、飛行制御は、主エンジン4基の推力偏向により実施される。


推力偏向方式は首振りノズルか?

第1段の推力偏向方式は、首振りノズルであるとする報道も見受けられる。しかし、R-36弾道ミサイルの、
RD-250エンジンはトラス構造で第1段に固定されており、推力偏向は4基の小型バーニア・エンジンにより実施されていた。

首振りノズルは、エンジン燃焼時に発生する高温、高圧に耐えながらも、推力方向を制御するノズル・システムが必要である。これには、エンジンの大規模な改造が必要となり、北朝鮮の技術レベルでは実用化は難しいと考える。

北朝鮮の公開した動画で、噴射炎を詳細に観察すると、時折、不均一な炎が見られる事から、
ノズル内部側面に液体推進剤を噴射、衝撃波を発生させて推力方向を制御する、2次噴射と呼ばれる方式を採用していると推測する。本方式は、首振りノズルに比べ、RD-250エンジンに小規模な改造で実現可能である。

 火星17は、22輪の自走式起立発射機に搭載され、偵察衛星、偵察機などの監視から逃れるため、トンネル、地下施設などに待機し、発射指令を受けると、指定の発射場所に移動する。ミサイル本体と自走式起立発射車輌の総重量は約250トンと推測され、走行可能な道路は、コンクリート等で舗装されている必要があり、発射場所は限定される。

 発射場所に到着すると、ミサイルを垂直に起立させ、機能確認などを実施後、発射される。

  発射後は、第一段、第二段 燃焼終了後、弾頭を分離する。その後、弾頭は与えられた運動エネルギーにより、弾道飛行して目標に向かう。最高高度は、1000km以上、秒速6km(音速の18倍弱)以上の速度で大気圏に再突入する。再突入体は、大気の抵抗で高温、高応力にさらされ、ノドンなどの射程1200kmクラスの中距離弾道ミサイルに比べ、格段に高度な設計、製造技術を必要とする。


大気圏再突入技術を獲得?

現時点では、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの大気圏再突入に必要な、耐熱・耐衝撃技術を獲得できたかは不明である。

しかし、これらの技術を獲得できていなくても、弾頭を米国上空の宇宙空間で爆発させれば、電磁パルスにより、米軍のレーダー、指揮・通信、および民間の通信、送電網までも混乱させることは可能だ。


                            2022年 12月14日 作成


性能・諸元

火星17

全   長:約26m
弾体直径:約2.6m(フレア部含む)
重   量:約100トン
弾頭重量:約1.5トン
射      程:15000km以上

C E P:5km以上


参考文献

宇宙航行の理論と技術 河崎俊夫編著 地人書簡
北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について 令和4年7月 防衛省
北朝鮮のミサイル等関連情報 令和4年11月18日 防衛省

新版 日本ロケット物語 大澤弘之監修 誠文堂新光社

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