LOSAT Line Of Sight
Anti-Tankの頭文字を取った造語。直訳すれば目視線(照準線)対戦車。
解説. 総合索引
秒速1500m(マッハ4.4)の超高速ミサイル、FCS(射撃統制装置)、車載型発射機などで構成される対戦車兵器システム。
戦車、バンカー、攻撃ヘリコプターなどの攻撃に使用される。ミサイルの制式名称はMGM-166A。Copyright
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LOSATは、米陸軍によりM551シェリダン空挺戦車(偵察車輌)の後継として1980年代後半に開発に着手した。
ミサイル本体の開発は比較的順調に進んだが、搭載車輌に付いては、紆余曲折を経て、軽量・小型のM1114装甲強化ハンヴィーとなった。
当初は2004会計年度中に低率初期量産を開始する予定であったが、予算打ち切りにより生産中止となった。
LOSATは、紛争初期に投入される軽装備の空挺師団や、軽歩兵師団などに、強力な対機甲戦闘能力を与える。
従来、このタイプの部隊は、TOW対戦車ミサイルしか装備していないため、敵が戦車を主力とする重機甲師団の場合、力不足を指摘されていた。LOSATは、ミサイルの持つ強力な運動エネルギーにより、戦車の正面装甲すら貫通できる。その上、ハンヴィーをベースとしているため、C-130中型輸送機により空輸可能で、迅速に海外展開可能な対戦車兵器システムである。
LOSAT兵器システムの構成は以下の通り。
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KEM(Kinetic Energy Missile運動エネルギー・ミサイル)
名称が示すとおり、KEMは、TOWなどの対戦車ミサイルの様にHEAT弾頭を持たず、秒速1500mのミサイルが持つ、40メガ・ジュールの運動エネルギーにより目標を破壊する。これは120mm戦車砲から発射されるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)のおよそ5倍の運動エネルギーを有し、ERAはもちろん現用戦車の複合装甲すらも貫通する。また、バンカーなどの強固な建造物の破壊にも有効である。
誘導は目視線指令誘導方式(CLOS:Command to Line
of Sight
Guidance)で、目標とFCSを直線で結んだ目視線と、ミサイルとの誤差角をFCSで検出して、飛行コースの修正指示をレーザーで送る。この方式の利点はミサイルに搭載される誘導装置には、ホーミング用シーカー(探知機)などの複雑で高価な装置を必要としない点だ。
KEMは、全長2.87m、弾体直径0.16m、重量78.9kgと対戦車ミサイルとしては大型である。射程は4kmを超え、戦車砲の射程外から攻撃も可能となり生存性も向上する。
構造は、前部にタングステン製弾芯(貫徹体)を搭載、後方は誘導装置を内蔵する。
この後は姿勢制御用ロケット・モーターが装着され、迅速な飛行コース制御を可能としている。
姿勢制御用ロケット・モーター後方には、KEMの運動、姿勢などを検知するIMU(慣性測定装置)を内蔵する。
弾体後部は、強力な推力を発生するAlliant Techsystems社製、XLDB(cross linked double based)高エネルギー推進薬を内蔵する固体推進薬ロケット・モーターで、複合素材の外殻を持ち、KEMを秒速1500mに加速する。外部には安定翼4枚を装着し、発射直後展開される。最後部はFCSから、レーザー誘導指令を受取る受信装置と、ノズルを持つ。KEMは2連装コンテナーに収容される。
- FCS(射撃統制装置)、発射装置搭載ハンヴィー
M1114装甲強化ハンヴィー(HMMWV:
High Mobility Multi-purpose Wheeled Vehicle:高機動多目的装輪車両)に,、2連装KEMコンテナーを2基、合計4発の即応弾を搭載する。
車体上部にはIBAS(Improved Bradley Acquisition System:改良型ブラッドリー歩兵戦闘車用目標補足システム)をベースとした、可視光テレビ、480X4個のフォーカル・プレーン素子を持つ第二世代画像赤外線装置と、CO2レーザーを使用したFCS(射撃統制装置)を搭載し、夜間でも交戦可能だ。
赤外線装置は目標の補足と、KEMの追尾。レーザーは目標までの距離・方位などの測定と、KEMの指令誘導に使用される。
FCSは自己診断装置を内蔵しており、現場では不具合ユニットを交換するだけで簡単に修理できる。
乗員は車長、射手、運転手の3名だが、交戦は2名で可能である。また、後部には再装填用小型クレーンを装着しており、10分以内に再装填可能だ。ハンヴィーは、2連装コンテナ4基(8発)を搭載した小型トレーラーを牽引する。
装甲キットを取付けた車体は、100mの距離から発射された7.62mm徹甲弾、5.4kgまでの対戦車地雷、砲弾破片などから乗員を守る。
装備重量は約5400kgと小型・軽量、C-17なら7輌、C-130は2輌を空輸可能で、海外にも迅速に展開可能だ。また、ワーアップしたエンジンを持つ、UH-60L中型輸送ヘリコプターなら、戦域内を吊下げて空輸も可能だ。
LOSATは、ハンヴィーの機動力を活かし、戦場を移動、戦闘工兵が構築した射撃陣地などから、FCSと発射口だけを露出させて対戦車戦闘をおこなう。
戦闘に先立ち、ロケット・モーターの排気炎から、前面ガラスを守る防護板を降ろす。
射手は目標を画像赤外線装置で捉え、車長の指示によりKEMを発射する。
KEMはロケット・モーターの排気煙が、レーザーを妨害しないよう、水平面から約3度上方に向け発射される。その後は、FCSからレーザーにより飛行コースのアップデートを受け、姿勢制御用ロケット・モーターを作動させ、飛行コースを補正して目標に命中する。なお、レーザーは時間分割方式により、同時に2目標に向けKEMを誘導可能。4発の発射に要する時間は20秒以内で、瞬間交戦能力に優れる。
およそ4km先の目標に対して、発射から着弾までに要する時間は、TOWは20秒以上を要するのに比べ、KEMでは発射後、5秒以内に弾着するため、回避行動や煙幕を展開する時間はほとんどない。 交戦終了後は、敵からの反撃を防ぐため、直ちに移動する。
高い撃破能力を持つLOSATだが、運用上の制約は以下の通り。
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ロケット・モーターの排気煙は発射位置を暴露する。
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M1114装甲強化型ハンヴィーの装甲は限定された防護力しか持たない。
- 目標に命中するまでの約5秒間、FCSで目標を照準し続ける必要がある。
- 至近距離ではKEMの加速が不十分で、破壊力が減少する。
- 空気中のゴミ、煙、水蒸気などにレーザー光が乱反射して、交戦できない場合もある。
- 夜間・悪天候時や遠距離では敵味方識別が困難なため、交戦可能距離は短くなる。
KEMを軽量・小型のCKEM(Compact Kinetic Energy Missile:小型運動エネルギー・ミサイル)としたタイプも開発されていたが、こちらも予算不足により開発中止となった模様だ。
2012年12月 3日改訂
性能・諸元
MGM-166A
全 長:2.87m
弾体直径:0.16m
速 度:秒速1500m
射 程:4km以上
重 量:78.9kg
誘導方式:目視線レーザー指令
メーカー:ロッキード・マーチン社他
参考文献
アメリカ軍の戦争マニュアルVol6 C17の北部イラク空輸・空挺作戦 軍事情報研究会 軍事研究2003年12月号 ジャパンミリタリーレビュー社
世界の装輪装甲車カタログ 日本兵器研究会編 アリアドネ企画
ミサイル工学事典 久野治義 原書房
Alliant Techsystems社ホームページ
Army Technologyホームページ
FIELD MANUAL No. 1-140 HELICOPTER GUNNERY U.S Army
Global Securityホームページ
GUIDED WEAPONS R G Lee他 BRASSEY'S
Heavy weapons for light vehicles RM Ogorkiewicz JANE'S INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW
May 2002
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS Jane's Information Group
Lockheed Martin社ホームページ
LOCKHEED MARTIN LINE-OF-SIGHT ANTI-TANK SYSTEM PROGRAM ACCELERATES JANE'S
INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW September 2002
LOSAT:Line of Sight Antitank June 2002 ARMY MAGAZINE
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