装薬 砲弾を発射するための火薬等の名称
解説 総合索引
砲弾を、所定の砲口速度で発射するための発射薬、点火薬等と、これを収納する容器を併せて装薬と呼ぶ。
本稿では、155mm榴弾砲に使用される装薬に付いて解説する。155mm榴弾砲は、砲弾と装薬が別々となった分離装填弾を使用する。Copyright (c)2007 Weapons School All rights reserved.
装薬には薬莢が無く、薬嚢(やくのう)と呼ばれる布袋に収納された発射薬と、これに点火するための点火薬を組合わせて、4本の帯で縛り、円筒形の枕状としたもので、数個の袋に分割され、号数が表示されている。また、砲口炎の抑制、砲腔内に付着した、弾帯の銅などを除去する薬剤等も添加される。Copyright (c)2007 Weapons School All rights reserved.
装薬は温度や湿度の変化に敏感なため、金属製の円筒形密封コンテナに収納された状態で砲側に供給される。
米軍の使用する主な装薬は、4種類あり、射程に応じて適切な装薬を選択する。
装薬は砲側で、射程により、不要な薬嚢を取り除いて使用する。榴弾砲の薬室に装填する際は、点火薬が閉鎖機側に来る様、方向性を確認後、装填する。逆方向に装填すると、砲腔内での最大圧発生点が砲口側に移動して、所定の砲口速度が得られない。
装薬取扱い上の注意事項を以下に挙げる。
- 温度・湿度に敏感なため、コンテナは使用直前まで開封しない。
- 装填時の方向性は点火薬を閉鎖機側にする。
- 乱暴に取扱うと、発射薬の形状が崩れ、所定の砲口速度が得られない。
- 閉鎖機になるべく近い場所に装填する、奥に入れすぎると、点火時期が遅れる。
- 帯は固く縛る。緩いと装薬の点火面積が増大して燃焼速度が速くなる。
- 製造ロットによる砲口速度のバラツキを考慮する必要があり、可能な限り同一製造ロットを使用することが推奨される。Copyright (c)2007 Weapons School All rights reserved.
M3A1などの分割された薬嚢には号数が表示され、各号数での砲口初速、最大射程は以下の通り。
装薬号数
(Charge No) |
使用薬嚢 |
砲口速度
m/秒 |
最大射程
km |
備 考 |
1号 (Charge1) |
1 |
(207.3) |
(3.9) |
1号装薬の砲口速度・最大射程は参考値。
砲口速度はM198榴弾砲からM3A1装薬を使用してM107榴弾を発射した場合の値。
|
2号 (Charge2) |
1+2 |
239.8 |
5 |
3号 (Charge3) |
1+2+3 |
280.8 |
6.5 |
4号 (Charge4) |
1+2+3+4 |
322.9 |
8.3 |
5号
(Charge5) |
1+2+3+4+5 |
380.1 |
9.8 |
M198榴弾砲を使用して、M107榴弾を射程6kmで発射する場合、M3A1を使用すると3号装薬(Charge3:1+2+3)で射程をカバーできるため、装薬を縛っている帯を緩め、薬嚢「4・5」を取外した後、帯を締めて、榴弾砲の薬室に装填する。
不要となった装薬の転用は、砲口速度の予測が困難なため、禁止されており、後で手順に従い焼却される。
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なお、砲口速度は装薬の性能以外に、砲弾の重量、砲身の摩滅、汚れ、弾帯の硬度、装填状態などの影響を受けるるため、最終的には砲口速度を測定して評価する。
【発射薬の形状および組成】
発射薬の燃焼は、表面から内部に向かって進行し、燃焼速度は、表面積に比例して増加する。所定の燃焼特性を得るため、発射薬の形状は円筒形で中心に1つ、または複数の穴の開いた管状のタイプが多い。発射薬は、計算された燃焼速度で薬室内の圧力を上昇させるが、発生する圧力は砲身の耐圧限界を超えるものであってはならない。
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発射薬には無煙火薬が使用され、基剤によりシングルベース、ダブルベース、トリプルベースに分類される。
名 称 |
基 剤 |
特 徴 |
シングルベース |
ニトロセルロース |
高温、多湿環境では分解しやすい。 |
ダブルベース |
ニトロセルロース+ニトログリセリン |
高性能だが、燃焼温度が高く、砲腔の焼食が大である。
砲口炎が発生しやすい。
安定度は高い。 |
トリプルベース |
ニトロセルロース+ニトログリセリン+ニトログアニジン |
ダブルベース発射薬とほぼ同等の性能を持ち、燃焼温度は低く、安定度は高い。 |
この他、添加される代表的な薬剤を以下に挙げる。
添加剤名称 |
目 的 |
原 材 料 |
安 定 剤 |
自然分解を抑制する |
ジフェニルアミン
エチルセントラリット |
消 炎 剤 |
砲口炎を減少させる |
硝酸カリウム
硫酸カリウム
硝酸バリウム
水晶石 |
表面
膠化剤 |
燃焼初期の燃焼速度を抑え、砲腔内圧の急上昇を防止する。 |
ジニトロトルエン
ジブチルフタレート |
光 沢 剤 |
帯電防止
填薬性向上 |
黒鉛 |
焼食抑制剤 |
燃焼ガスによる砲腔の侵食を抑制する。
|
ニトログアニジン
ピログルタミン酸カルシウム
DL-アラニン |
除 銅 剤 |
砲腔内に付着した弾帯の銅を除去する。 |
鉛
鈴
炭酸鉛 |
使用の際には、コンテナから取出し、射程に応じて、不要な薬嚢を取り除く。砲弾と共に薬室に装填され、砲尾が閉鎖機により閉鎖されると、薬室は密閉状態となる。
撃発装置により火管が発火、この炎が点火薬を燃焼させ、薬嚢に入っている発射薬に点火する。
薬室内の内圧、温度は、発射薬燃焼に伴い上昇、これに比例して燃焼速度も増加する。
砲弾は燃焼ガス圧力により移動を開始、弾帯が砲腔内のライフリングに喰い込み、一時的に停止もしくは速度が低下するが、圧力の増加により所定の速度に達し発射される。
装薬の燃焼は砲身長のおよそ10分の1で終了、この時点で砲腔内圧力は最大となり300MPaを超える場合もある、この後は砲弾の移動による容量増加のため砲腔内圧力は低下する。
現在使用されているM3A1、M4A2などの装薬は無駄が多く、自動装填装置への使用も困難であるため、射程、射角に応じて個数を増減するだけのモジュール式装薬も開発された。
2008年12月16日改訂
性能・諸元
M3A1装薬
全 長:40.6cm
最大射程:9.8km(M198榴弾砲からM107榴弾発射の場合)
成 分:シングルベース発射薬M1
参考文献
エネルギー物質ハンドブック 社団法人 火薬学会/編 共立出版株式会社
火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)弾道学研究会編 防衛技術協会
火薬のはなし 久保田 波之介著 日刊工業新聞社
日本砲兵史 陸上自衛隊 富士学校特科会 原書房
AMMUNITION FOR THE LAND BATTLE P R Courtney-Green Brassey's
EXPLOSIVES,PROPELLANTS & PYROTECHNICS A Bailey & S G Murray
Brassey's
FIELD MANUAL No. 6-40 Tactics, Techniques, and Procedures for THE FIELD
ARTILLERY MANUAL CANNON GUNNERY U.S Army
Jane's AMMUNITION HANDBOOK 1997−98Terry J Gander
Jane's Information Group
MARINE CORPS WARFIGHTING PUBLICATION 3-16.1 Marine Artillery Operations
U.S. Marine Corps
MILITARY BALLISTICS G M Moss他 Brassey's
PEO Ammunition Joint Lethaltity U.S Army
SNC TEC社ホームページ
WARMACHINES No1 MILITARY PHOTO FILE M108-M109-M109A1/A2 SELF PROPELLED ARTILLERY
VEHICLE Francois VERLINDEN & Willy PEETERS VERLINDEN PUBLICATIONS
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