M107 155mm榴弾砲から発射される砲弾の名称。
解説 総合索引
旧西側諸国で最も多用される砲弾。内部に、炸薬を充填した砲弾で、HE(High
Explosive:高性能炸薬)、または榴弾と呼ばれる。炸薬の爆発により、爆風・破片を放出する。人員・軽装甲車輌・建物などの攻撃に幅広く使用される。Copyright
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M107は第二次世界大戦以前、米国で開発され、旧西側各国で生産されたベストセラー砲弾だ。
M107は、薬莢がなく、砲弾と装薬(発射薬)が別々となった、分離装填弾である。
構造は、鋼製鍛造の弾殻と呼ばれる容器に、TNTまたはコンポジションB炸薬を充填する。
先端部分は信管を取付けるネジが切られている。保管・輸送時、信管取付け部を保護し、異物などの浸入を防ぐため、揚弾栓と呼ばれるリング状の取っ手の付いたカバーを取付ける。
砲弾前部の湾曲した部分は蛋(たん)形部と呼ばれ、砲弾の重量区分、口径、充填炸薬、製造ロット、制式名称、識別コードなどが黄色で表示される。
蛋形部と円筒形部分との境目は定心部と呼ばれ、砲身内部を砲弾が真っ直ぐ進む、ガイドの役割を果たす。発射された砲弾が砲身内部を移動する際には、この定心部と弾帯のみが砲身に接している。
砲弾後部外周には、銅合金製の弾帯が取付けられ、ライフリングに喰い込んで砲弾に回転を与え、装薬燃焼ガスの漏れを防ぐ。なお、弾帯には保管・輸送中の傷・汚れなどを防止するカバーが装着される。
弾底部は空気抵抗を低減するため、円錐形となっている。最後部には、装薬燃焼時に発生する、高温・高圧ガスの内部侵入を防ぐ弾底覆を取付ける。
砲弾には、薬室および砲身内部で、高温・高圧のガスから炸薬を保護し、射撃時の加速度、遠心力、および着弾時の衝撃で変形・破壊されない機械的強度が求められる。
砲弾は加熱した鋼材を鍛造加工して花瓶状とし、スピニング成形後、熱処理を行い、内部の割れなどの欠陥を調べるため、超音波探傷検査をおこなう。この後、NC旋盤などで信管取付け部分のネジ加工や、外形部を所定の寸法に仕上げる。さらに、弾底覆いを溶接などで取付け、銅合金製の弾帯を外径溝に圧入、所定の寸法に仕上げる。
加工工程終了後、防錆、識別のため塗装される。内部も、炸薬との密着性向上、および防錆のため、特殊合成樹脂塗装を行う。
この後、砲弾は炸薬メーカーにて、炸薬を溶填(ようてん)される。溶填とは、TNT(6.62kg)またはコンポジションB(6.985kg)炸薬を、蒸気などで加熱して溶かし、内部に流し込む填薬方法である。
溶填後、炸薬は冷えて固体状となり、発射時の2万Gを超える加速度や、砲弾の旋転に伴う遠心力などに耐えることができる。
溶填に際しては、過熱による爆発事故の防止に注意するのはもちろん、異物の混入、冷却時に発生しやすい、「す」の発生に注意する必要がある。
異物や「す」が炸薬内部に存在すると、発射時の衝撃により、砲弾が砲身内部で爆発する「腔発」などの事故を引き起こす。
信管は、使用される榴弾砲の近くで取付ける。揚弾栓を取り外し、信管を専用レンチで砲弾にネジ込む。信管は衝撃に敏感なため、取扱いには細心の注意が必要である。
信管には瞬発、延期、時限、近接信管などがあり、目的に応じて使用される。最も使用頻度が高いのは、着弾と同時に起爆する瞬発信管である。
M107の装薬は、発射薬をサイズの異なる布製袋に詰め、5個束ねて円筒形枕状としたM3A1(緑嚢)、M4A2(白嚢)が、主に使用される。発射薬は、ニトロセルロースを主成分とする、シングル-ベース発射薬M1である。
使用の際には、射程に応じて、不要な袋を取除き、薬室に装填される。保管・輸送時は、発射薬の吸湿・変形を防ぐ円筒形コンテナーに収納され、使用直前に取り出される。
M107砲弾は、弾帯が砲身のライフリングに噛み込むまで挿入され、薬室に装薬を装填後、砲尾が閉鎖機により閉鎖され、火管(かかん:装薬に点火する火薬装置)をセットすると発射準備が整う。
装薬に点火されると、薬室内に高温・高圧燃焼ガスを発生し、砲弾が発射される。砲口を飛び出した砲弾は、放物線を描いて飛翔し、所定の場所、時間で信管により起爆され、周辺に爆風・破片を放出する。M107砲弾の効力範囲は、長径45m、短径30mとされる。
155mm榴弾砲、榴弾として一般的なM107であるが、射程および、炸薬量の不足が指摘される。
しかし、各国の保有するほとんどの155mm榴弾砲から発射可能なこと、備蓄されている量も多く、他の砲弾に比べ価格も安価なため、当分の間、榴弾の主役であり続けるだろう。
2008年11月20日改訂
性能・諸元
M107 HE弾
全 長:605.3mm(信管なし)
最大弾殻直径:154.89mm
最大弾帯直径:157.98mm
炸 薬:TNTまたはコンポジションB
重 量:40.8〜42.9kg(揚弾栓装着時)
最大射程:14800m(M4A2装薬、M198榴弾砲使用時)
参考文献
エネルギー物質ハンドブック 社団法人 火薬学会/編 共立出版株式会社
火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)弾道学研究会編 防衛技術協会
火薬のはなし 久保田 波之介著 日刊工業新聞社
自衛隊装備年鑑2002−2003朝雲新聞社編集局 朝雲新聞社
大図解 最新兵器戦闘マニュアル 坂本明 グリーンアロー出版
日本砲兵史 陸上自衛隊 富士学校特科会 原書房
日本の防衛戦力1陸上自衛隊 読売新聞社編 読売新聞社
砲兵−その役割と運用−亀井浩太郎 PANZER1998年3月号
AMMUNITION FOR THE LAND BATTLE P R Courtney-Green Brassey's
EXPLOSIVES,PROPELLANTS & PYROTECHNICS A Bailey & S G Murray
Brassey's
FIELD MANUAL No. 6-50 Tactics, Techniques, and Procedures for THE FIELD
ARTILLERY CANNON BATTERY U.S Army
Jane's AMMUNITION HANDBOOK 1997−98Terry J Gander
Jane's Information Group
MARINE CORPS WARFIGHTING PUBLICATION 3-16.1 Marine Artillery Operations
U.S. Marine Corps
MILITARY BALLISTICS G M Moss他 Brassey's
WARMACHINES No1 MILITARY PHOTO FILE M108-M109-M109A1/A2 SELF PROPELLED ARTILLERY
VEHICLE Francois VERLINDEN & Willy PEETERS VERLINDEN PUBLICATIONS
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