MRAP エムラップと読む。Mine Resistant Ambush Protectedの頭文字を取った略語。直訳すれば耐地雷・待ち伏せ防御(車両)


解説.                    総合索引

 爆発物による爆風・破片から乗員を守る、特殊な構造を有する装輪装甲車両の総称。




 MRAPは、イラク、アフガニスタン等で、米国主導により行われている対テロ戦争に於いて、最も多くの死傷者を発生させているIED(Improvised Explosive Device:即製爆発装置)への緊急対策として導入が進められている。
 なお、MRAPは米国独自の呼称で、アフリカや欧州では、MRVs(Mine-Resistant Vehicles:対地雷車両)と呼ぶのが一般的である。

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 米国防省は、MRAPを最優先の調達計画として位置づけており、2007年末までに1500台、2008年中に1万台以上を調達する計画である。これに要する費用は2兆円を超える。短期間での大量調達のため、メーカーも1社では対応できず、7社から様々なタイプの車両を、かき集めているのが実情だ。

 武装勢力のIEDを使用した攻撃は、2004年頃より増加しており、攻撃の対象は、軽装備のパトロール部隊や、輸送部隊の車列を主な目標としている。

 こうした部隊が装備しているのは、せいぜい装甲化されたハンヴィー(HMMWV:高機動多目的装輪車両)で、小銃弾や2kg程度の爆発物から乗員を守ることはできる。しかし、IEDに使用される砲弾など、大型爆発物の爆風・破片に対しては、車体が吹き飛ばされ大破し、乗員も死傷する。


 戦闘による死傷者も増加の一途をたどり、2007年12月末までに、死者3千名以上、負傷者は約3万名と多大な損害を被っている。死傷者の半数以上はIEDによるとされ、前線の部隊からは、MRAPの必要性が訴えられていた。しかし、その調達は遅々として進まず、増加する死傷者数と、世論の高まりを受け、米国防省が本腰でMRAPの大量調達に乗り出したのは、2006年11月からだ。


 MRAPは、南アフリカにおいて、反政府ゲリラによる地雷等を使用した、待ち伏せ攻撃に対処するため開発された車両を元にしている。

 民生用トラック等をベースとして、運転席、兵員室に防弾鋼板と防弾ガラスを装着する。エンジン及びプロペラ・シャフトなどの駆動系にも防弾処理を施している。タイヤは銃撃や爆発により、空気が抜けても走行可能な、ランフラット・タイヤを使用しており、危険地帯から脱出できる。
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 MRAPの装甲ハンヴィー等と大きく異なる点は、運転席、兵員室下部の断面をV字形とし、地面からの距離を取ることにより、車体下部からの爆風・破片を効果的に逃がす構造となっている点だ。車高も高く、大型防弾ガラスを使用しているため、兵員は車外の状況を把握しやすい。乗員には爆発の衝撃を緩和する座席と、万一、車体が横転した場合に、体が投げ出され死傷するのを防ぐ、4点式シートベルトが用意されている。

        
 MRAPはこれらの装備により7.62mm徹甲弾に対して防弾能力を有し、車軸下でロシア製、爆風・破片型対戦車地雷(TNT6.3kg)2個、または車体下部で1個が爆発しても乗員は安全である。米国防省ではMRAPにより死傷者を6割以上、減少可能としている。

 任務および車体サイズによりMRAPは、3区分される。

種  別 主  要  任  務 車体サイズ
カテゴリーI 偵察、パトロール、指揮・通信、兵員輸送 小 型
カテゴリーII 車列警護、戦闘工兵、兵員輸送、急患輸送 中 型
カテゴリーIII 爆発物処理、車列警護 大 型




IEDに対して有効なMRAPではあるが、問題点も数多く指摘されている。

  • 車体下部断面を、V字形としているため、重心位置が高く、横転しやすい。

  • EFP(爆発成形弾)や成形炸薬を利用したIEDに対しては無力である
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  • 車体の大型化、重量増加により、輸送手段は限定され、緊急展開能力が低下する




  • 車高が高く大型のため、敵の攻撃目標となりやすい

  • 4輪または6輪駆動ではあるが、不整地走行能力は限定的

  • 装甲ハンヴィーに比べ4倍以上高価で、燃料消費も多い

  • 様々なタイプを購入しているため、部品の互換性に問題があり、訓練、整備維持に手間とコストが掛かる

  • 用途は、非正規戦闘に限定される

  • 短期間の大量発注に、鋼材、タイヤ、車体メーカーの生産能力が追い付かない

 米国防省は、増加するEFPを利用したIEDに対処するため、防護力を強化したMRAPIIも開発中である。
                           2008年8月 1日改訂


性能・諸元

バッファロー  カテゴリーIII


全   長:8.2m
全   幅:2.59m

全   高:3.96m
車体重量:20.5トン

最大重量:36.2トン
エンジン出力:400馬力 ディーゼル
乗  員:6名
メーカー:フォース・プロテクション社


参考文献

世界の装輪装甲車カタログ 日本兵器研究会編 アリアドネ企画
陸上防衛技術のすべて 防衛技術ジャーナル編集部編 (財)防衛技術協会
切り札となるか?MRAP緊急導入 野木恵一 軍事研究2007年11月号 ジャパンミリタリーレビュー社
A Military Guide to Terrorism in the Twenty-First Century U.S. Army DCSINT Handbook No. 1 (Version 3.0) 
BEFORE THE SUBCOMMITTEES ON SEAPOWER AND EXPDITONARY FORCES OF THE HOUSE ARMED SERVICES COMMITTEE STATEMENT July 19,2007 HONORABLE JOHN J,YOUNG,JR. DIRECTOR, DEFENSE RESEARCH AND ENGINEERING
Countering the IED Threat Military Technology 6/2006
FORCE PROTECTION社ホームページ
FORCE PROTECTION WORKING GROUP16 January 2004 COALITION PROVISIONAL AUTHORITY
FY 2008 GLOBAL WAR ON TERROR AMENDMENT Department of  Defense October 2007

Jane's  ARMOUR AND ARTILLERY 1997-98 Jane's Information Group
Of  IEDs and MRAPs: Force Protection in Complex Irregular Operations by Andrew F. Krepinevich and Dakota L. Wood The Center for Strategic and Budgetary Assessments 2007
Procurement Policy for Armored Vehicles  Report No.D-2007-107 June 27, 2007 Department of Defense Office of Inspector General
Report to Congress on the Situation in Iraq General David H. Petraeus Commander, Multi-National Force-Iraq 10-11 September 2007 
Mine-Resistant,Ambush-Protected(MRAP)Vehicels:Background and Issues for Congress CRS Report for Congress Order Code RS22707 August 21.2007
MRAP-Mine Resistant,Ambush-Protected Vehicele Programme John Antal MILITARY TECHNOLOGY  5/2007
Mrap Vehicle Orders Top 11,900 IMMEDIATE RELEASE No. 1416-07December 18, 2007U.S. Department of Defense Office of the Assistant Secretary of Defense (Public Affairs) News Release 


Weighting up the options:armour protection adapts to new threats R M Ogorkiewicz 
JANE'S INTERNATIONAL DEFENCE REVIEW OCTOBER 2007

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