ヘルファイア 対戦車ミサイルの名称。Heliborne-launched, Fire and Forget(ヘリコプター発射、撃ちっ放し)を組合わせた造語。英語のHellfire(地獄の炎の意)を意識して命名されたと思われる。


解説.                    総合索引

 攻撃ヘリコプターなどに搭載されるセミ・アクティブ・レーザー誘導 対戦車ミサイル。
 レーダー、指揮・通信施設、橋、建物などのピンポイント目標の破壊や、ヘリコプター同士の空対空戦闘にも使用される。制式名称AGM-114 Hellfire Missile。Copyright
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 ヘルファイア・ミサイルは、米陸軍により有線誘導方式 対戦車ミサイルTOWの後継として1971年に開発が始められ、1984年から部隊配備を開始。 現在までに65000発以上が生産されアラブ首長国連邦、イギリス、イスラエル、エジプト、オランダ、カナダ、韓国、ギリシャ、クウェート、サウジアラビア、スウェーデン、台湾、ノルウェーなどで使用されている。

 湾岸戦争では対機甲戦闘のほか、開戦当日、AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターに搭載され、イラク軍レーダー・サイトを攻撃・破壊した。またアフガニスタンにおける「不朽の自由」作戦では無人機プレデターに搭載され、車輌や建物の破壊もおこなった。

  ヘルファイア・ミサイルの構造はモジュラー構造となっており、大きく5つに区分される。
  先端部分はレーザー・シーカー(探知機)を内蔵しており、レーザー照射機から目標に向け照射されたレーザー波の反射光を捕らえる。L型(ロングボウ・ヘルファイア)ではレーザー・シーカーに替えてアクティブ・ミリメートル波レーダー・シーカーを搭載、発射後は自律して目標に誘導される撃ちっ放し能力を持つ。

 シーカー後方は弾頭部分で、8kgの成形炸薬弾頭と着発信管を内蔵する。F型からはERA(爆発反応装甲)に対抗するため、前部に小型成形炸薬弾頭を追加したタンデム弾頭タイプとなった。M型では焼夷効果をあわせ持つ爆風・破片炸薬弾頭を使用する。
 弾頭部分後方はジャイロや自動操縦装置などを内蔵する誘導部分となっている。
 誘導部分の後ろはM120固体推進薬ロケット・モーターを内蔵しており、外側には安定翼が取り付けられる。
 最後部は作動装置を内蔵する飛行制御部分と外側に操舵翼4枚を装着する。

 ヘルファイア・ミサイルはAH-64アパッチ攻撃ヘリコプターなどの、M272またはMIL-STD-1760データ・バスを持つM299ランチャーに、2発もしくは4発搭載される。
 発射されるとロケット・モーターが約3秒間燃焼してミサイルを毎秒340m(マッハ1)以上に加速、燃焼終了後は惰性で飛行する。

 発射後およそ200mを飛行すると安全装置は解除されるが、レーザー・シーカーの制約から最小交戦距離は500mとなる。最大有効射程は8kmだが、最大高度約250m(A型は500m)の放物線状の経路を飛行する。雲底の低い場合、雲の中に入るとレーザー・シーカーは目標を見失ってしまうので、ミサイルが雲の中に入らないように交戦距離を短くする必要がある。
 

 交戦時、波長1.06μのパルス・コード化されたレーザー波を、航空機もしくは地上から目標に向けて照射する。交戦モードにはヘルファイア・ミサイルを発射する航空機自身が、レーザー波を照射する自律モードと、OH-58D観測ヘリコプターや地上部隊がレーザー波を照射する遠隔モードがある。
 遠隔モードの場合、ヘルファイア・ミサイルを発射する航空機は丘や樹木の陰に隠れて、目標を直接見ることなくミサイルを発射する。レーザー照射はOH-58Dや地上部隊に任せ、発射後は直ちに退避行動を取れるので生存性が高い。また複数のミサイルを別々の目標に向けて発射することも可能だ。しかし、発射航空機とレーザー照射機の間で、目標の位置情報、レーザー照射コード、照射時期などの情報を密接に交換する必要がある。


 ヘルファイア・ミサイルの発射方式には目標をレーザー・シーカーで補足する時期によりLOBLとLOALと呼ばれる2つの方式がある。
 LOBL(Lock-On Before Launch)は発射前にレーザー・シーカーで目標をロック・オン(補足)する。
主に発射する航空機から目標を直接目視できる場合に用いられる。
 LOAL(Lock-On After Launch)はミサイル発射後にレーザー・シーカーが目標をロック・オンする方式で、発射する航空機は丘や樹木の陰からヘルファイア・ミサイルを発射する。主に遠隔交戦モードの場合に用いられる。

高い攻撃能力を持つヘルファイア・ミサイルだが、運用上の制約は以下の通り。
  • ミサイルが目標に命中するまでレーザー波を照射し続ける必要がある。(L型を除く)
  • 空気中のゴミ、煙、水蒸気などにレーザー光が乱反射して、目標へのレーザー照射を困難にする場合がある。
  • 夜間・悪天候時や遠距離では敵味方識別が困難なため、交戦可能距離は短くなる。
  • 遠隔交戦モードの場合、レーザー照射機は目標とミサイル発射機を結ぶ直線の左右60度以内から照射しなければならない。
  • 雲底が低い場合、発射されたヘルファイア・ミサイルが雲の中に入り、レーザー反射光を見失う場合もある。


 ヘルファイア・ミサイルの主なタイプは以下の通り。

名称 AGM-114A AGM-114B AGM-114C AGM-114F
インタリム・ヘルファイア
シーカー セミ・アクティブ・レーザー 改良型セミ・アクティブ・レーザー・シーカー
弾頭 成形炸薬 タンデム成形炸薬弾頭
全長m 1.63 1.8
弾体直径m 0.18
翼幅m 0.33
射程km
重量kg 45.7 48.6
備考 生産中止

実弾演習に使用

海兵隊AH-1用、艦艇上での運用のためロケット・モーターに安全装置を追加

低排煙ロケット・モーターを採用

飛行経路をフラット化
B型をベースとしてロケット・モーターの安全装置を削除
C型をベースとする

 

名称 AGM-114K
ヘルファイアII

AGM-114L
ロングボウ・ヘルファイア

AGM-114M
ヘルファイアII
シーカー 目標補足および対妨害能力を向上させたセミ・アクティブ・レーザー・シーカー ミリメートル波アクティブ・レーダー・シーカー K型と同じセミ・アクティブ・レーザー・シーカー
弾頭 先端弾頭を大型化したタンデム成形炸薬弾頭 爆風・破片弾頭+焼夷効果
遅延信管
全長m 1.63 1.75 1.63
弾体直径m 0.18
翼幅m 0.33
射程km
重量kg 45 49 48
備考 プログラム可能なデジタル・オートパイロットを装備

低排気煙ロケット・モーター

目標再補足能力強化
撃ちっ放し能力獲得

ミリメートル波レーダーを装備したAH‐64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターに搭載される

夜間はもちろん悪天候時でもミリメートル波レーダーを使用して目標を遠距離で補足・攻撃可能

K型をベースとする
K型をベースとする

航空機・艦船・車輌搭載可能

艦船攻撃から陸上施設、軽装甲車輌の破壊まで多目的に使用可能

 この他、イギリスではロングボウ・ヘルファイア・ミサイルの派生型であるブリムストン、スウェーデン向けの対艦ミサイルRBS17などがある。
 
                          2007年3月31日改訂


性能・諸元

AGM-114K
全長:1.63m
翼幅:0.33m
弾体直径:0.18m
射程:8km
重量:45kg
弾頭:タンデム成形炸薬
誘導方式:セミ・アクティブ・レーザー・ホーミング
メーカー:ロッキード・マーチン社他


参考文献

航空ファン イラストレイテッド99-4 No105 AH-64アパッチ 青木謙知 文林堂
攻撃ヘリのすべて 江畑謙介 原書房
戦場のIT革命 湾岸戦争データファイル 河津幸英 アリアドネ企画
U・S・ウエポン・ハンドブック 宮本勲編著 原書房
Alliant Techsystems社ホームページ
Federation of American Scientistsホームページ
FIELD MANUAL No. 1-112 ATTACK HELICOPTER OPERATIONS U.S Army
FIELD MANUAL No. 1-140  HELICOPTER GUNNERY U.S Army
Jane's Air-Lunched Weapons Jane's Information Groups
Jane's Naval Weapon Systems  Jane's Information Group
Lockheed Martin社ホームページ
U.S. Army TACOM-RIホームページ

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