解説 総合索引 対空兵器のレーダーを破壊するため開発された、空対地 対レーダー・ミサイル。SEADミッションに使用される米国製兵器。 対地攻撃をおこなう、軍用機にとって、目標付近に配備された対空兵器は脅威である。この脅威を取り除くため、開発されたのが、対レーダー・ミサイルだ。光学誘導される場合を除いて、対空兵器はレーダーにより誘導される。このレーダーを使用不能にすれば、目標を捕らえることができず、対空兵器は無力となる。対レーダー・ミサイルは対空兵器誘導用レーダーが発射する電波を捕らえ、電波の発射源であるレーダー・アンテナに向けて突入、破壊する。 写真:USAF
構造は、4つの部分から構成されている。先端部分に、レーダー電波シーカー(探知機)、その後ろには、レーザー近接信管を備えた弾頭部分。弾頭には66kgの炸薬が鋼球と共に収納されており、爆風と鋼球を周辺に放出してレーダー・アンテナおよび、付属設備に被害をあたえる。なお、C型からは鋼球に替えて、タングステン合金球が使用され殺傷力を増している。弾頭の後方は誘導部分となっており、INSと自動操縦装置、ダブル・デルタ型の操舵翼を作動させる動力装置を収納する。後部には無煙化された、固体推進薬ロケット・モーターを内蔵、外側には安定翼4枚を装着する。 HARMは第1世代 対レーダー・ミサイル、シュライクの後継として開発された。その目的は、シュライクの3つの弱点を克服することだった。第1の弱点はレーダー・シーカーの受信周波数が限定されており、目標に合わせて、シーカーを取り替えなければならないため、運用上の柔軟性を欠いていた。第2の弱点は射程が40kmと短く、搭載する航空機は、敵レーダーの射程内から機体を危険にさらして、シュライクを発射しなければならなかった。第3の弱点は飛翔速度がマッハ2と、地対空ミサイルと同程度のため、対空ミサイルが母機に向けて発射された場合、HARMを発射すると、地上レーダーを破壊できるが、母機もその対空ミサイルで撃墜される危険性がある。 HARMでは、これらの欠点を克服するため、レーダー波シーカーの受信周波数を0.5−20ギガ・ヘルツまで拡大、1つのシーカーで広い周波数をカバーできる。これにより、対空兵器用レーダーだけでなく、早期警戒レーダー・航空管制レーダーや、気象レーダーまでも目標とすることが可能となり、運用上の柔軟性も高まった。また、射程も80km以上とシュライクの2倍となり、対空兵器の射程外から、攻撃可能となった。さらに、シュライクではレーダー波の放射を停止すると目標を見失ってしまうが、HARMでは精度は低下するが、位置を記憶しているので、そのまま攻撃可能だ。飛翔速度についても、マッハ3以上(推定値)となり、目標レーダーへの到達時間が短縮され母機の安全性が高まった。 HARMには、Self−protection ・ Target of opportunity ・ Pre-Briefedの3つの攻撃モードがあり、状況に応じて選択される。
HARMの弱点は、目標がレーダー波の放射を停止した場合に、攻撃の精度が低下すること。また、弾頭が66kgと、通常爆弾などと比較して小さいため、効果が限定されることだ。これらの弱点を克服するため、D型ではGPS(全地球測位システム)を追加して攻撃精度を向上させている。さらには、シーカーを高感度なものに取り替え、ミリ波レーダー・赤外線センサーや衛星からの情報により、電波を発射していない移動目標でも攻撃できるE型も開発されている。HARMは新たな脅威に対応するため、様々な改良が行なわれており、まとめると以下の様になる。
HARMはF−16C、F/A−18、F−15、EA−6、トーネイドIDS/ECR、F−117など、様々な航空機に搭載可能だ。しかし、HARMの能力を100%発揮させるには、搭載航空機に敵レーダー放射源の種類、位置、タイプを精密に特定できる高度な電子戦装備(HTS等)が不可欠である。
性能・諸元 AGM−88 参考文献
図解エアパワー最前線上・下 原書房 著者:アンソニー・ソーンボロ 監訳者:松崎豊一 Copyright (c)2002 Weapons School All rights reserved. |