BMD
Ballistic Missile Defenseの頭文字を取った略語。直訳すれば弾道ミサイル防衛。
解説 総合索引
米国および、米軍展開地域などに向け発射された、弾道ミサイルを迎撃する防衛システムの名称。Copyright (c)2005 Weapons
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BMDは、ロシア、中国による弾道ミサイルの誤発射、および北朝鮮、イランなどの「ならず者国家」による、米国本土を狙う長距離弾道ミサイルの迎撃、および海外に展開する米軍、同盟国に対して発射される、限定された数の、短・中距離弾道ミサイルの迎撃を目的とする。
米国は1950年代後半から、旧ソ連の弾道ミサイル攻撃に対抗するため、弾道ミサイル防衛網の開発に取り組んでおり、核弾頭搭載型ナイキ・ハーキュリーズから始まり、1983年レーガン政権によるSDI(戦略防衛構想)を経て、現在のBMD(弾道ミサイル防衛)に至っている。
弾道ミサイルの飛翔経路は3つに区分され、各段階における迎撃の長所・短所は以下の通り。
飛翔経路区分 |
時間(分) |
長 所 |
短 所 |
加速段階 |
1〜5分 |
推進装置から、大量の可視光、赤外線を放出し補足が容易
オトリやチャフなどの妨害手段を展開していない
再突入体、分離前のため目標サイズが大きく補足し易い
推進装置は攻撃に弱い |
迎撃可能な時間は、5分以下
加速性に優れる、秒速4km以上の高速ミサイルが必要 |
中間コース段階 |
3〜25分 |
目標識別、追跡、迎撃、効果判定に時間を掛けられる |
オトリやチャフ等と、再突入体を識別するため高度なセンサーを必要とする
再突入体を分離するタイプは目標が小さく補足し難い
赤外線放出量は最小 |
終末段階 |
約1分 |
大気圏再突入時の空力加熱により、赤外線放出量が増加するため補足は容易
空気抵抗により、オトリなどとの識別は可能 |
迎撃可能時間は約1分と短い |
本稿では、米国が配備を進めているBMD(弾道ミサイル防衛)の主要な構成要素である、センサー、迎撃手段、C2BMCについて解説する。
■センサー
弾道ミサイルの飛翔経路全般に渡り、発射監視、追跡、識別を行い、正確な情報を提供する主なセンサーを紹介する。
- イージス艦
改良型アーリー・バーク級駆逐艦および、タイコンディロガ級イージス巡洋艦。
搭載するAN/SPY-1レーダー、およびソフト・ウエアの改良を行い、弾道ミサイルの長距離捜索・追跡LRS&T(Long
Range Surveillance and Track)能力を持つ。弾道ミサイル発射地点の周辺海域に展開する。
(c) Weapons
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弾道ミサイル発射の早期探知および、補足、追尾し、その情報をLINK16などのデータ・リンクを通じて、C2BMCに伝達する。
- AN/TPY−2
前方展開 X波長帯レーダー
(c) Weapons
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THAADシステム用、可搬型、X波長帯フェーズド・アレイ・レーダーを使用する。
弾道ミサイルの脅威に直面する地域に配備し、早期探知および追跡、目標識別などの情報を配信する。
2018年
現在、イスラエル、トルコ、中東、及び日本に2基、展開中である。
- UAV(Unmanned Aerial Vehicles:無人航空機)
弾道ミサイル発射が予想される地域付近を長時間飛行し、継続して監視を行う。
■迎撃手段
弾道ミサイル迎撃手段の主なものを以下に解説する。
迎撃手段 |
特 徴 |
長 所 |
短 所 |
爆風・破片弾頭
ミサイル |
炸薬を内蔵し、爆発により発生する爆風、破片により目標を破壊 |
効果範囲は数10m以上 |
目標に到達する破片は数10g程度で、目標に与える損害は小さい
目標を完全に破壊するのは困難 |
運動エネルギー弾頭
ミサイル |
炸薬を内蔵せず、運動エネルギーのみで破壊 |
爆風破片炸薬に比べ運動エネルギーは数十倍以上で、目標を完全に破壊できる可能性が高い |
効果範囲は爆風・破片弾頭の百分の一以下
目標を直撃しないと効果は無い
弾頭を目標に命中させるため高度な誘導技術を要する
|
レーザー兵器 |
レーザーによる熱エネルギーで目標を破壊 |
光とほぼ同じ早さで攻撃可能 |
遠距離目標の攻撃には数メガワットの大出力が必要
大気などの影響を補正する必要あり |
核弾頭ミサイル |
核弾頭の爆発による衝撃波、放射線、熱、電磁パルスにより目標を無力化 |
効果範囲は百m以上 |
核爆発の電磁パルス等により、味方の、指揮、通信、センサー機能なども麻痺状態となる
低高度での核爆発は地上にも被害を及ぼす |
弾道ミサイル迎撃手段の主流は、目標に体当たりする運動エネルギー弾頭である。これは、従来の爆風・破片弾頭に比べ、弾頭の持つ運動エネルギーが、数十倍以上と桁違いに大きく、目標を粉々に破壊できる可能性が高い。しかし、目標を直撃しなければ、効果は無く、高度な誘導技術を要する。
米国が現在、配備を進めている迎撃システムを以下に挙げる。
迎撃システム |
概 要 |
射 程 |
飛翔段階区分 |
GMD(地上配備中間コース防衛) |
地下サイロ配備、長距離迎撃ミサイル
|
1000km以上
|
中間コース段階 |
AegisBMD(イージス弾道ミサイル防衛)Copyright
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SM−3BlockI(1)/II(2)
SM-2BlockIV(4)改良型
|
500km以上
370km以上
|
中間コース段階
終末段階 |
THAAD(終末高々度防衛)
|
地域・拠点防空用中距離迎撃ミサイル
|
200km以上
|
中間コース段階
終末段階
|
PAC-3(パトリオット先進能力)
|
部隊・拠点防空用短距離迎撃ミサイル
|
約20km
|
終末段階 |
弾道ミサイル防衛は、一つの兵器システムに依存するのではなく、複数のシステムにより、迎撃率を高め、オトリなどの識別能力も向上する。これを多層防衛(Layerd
Defense)と呼ぶ。
なお、当初、加速段階での迎撃手段として開発されていた、ABL(航空機搭載レーザー)と、KEI(運動エネルギー迎撃体)は予算削減および、運用上の問題から開発中止となった。従って、迎撃は中間コース段階と終末段階で実施される。
■C2BMC Command,
Control, Battle Management, and
Communications:指揮・統制・戦闘管理・通信
弾道ミサイル防衛システムの頭脳および中枢神経。
弾道ミサイル防衛は、従来の陸・海・空軍などの区分に捕らわれる事無く、各種センサーからの情報を一元処理し、状況をリアルタイムで把握、迎撃システムの割り当てなどを行う、統合指揮・統制システムが必要となる。
注目を浴びるBMD(弾道ミサイル防衛計画)ではあるが、これに要する費用は2004年〜2009会計年度で5兆円を超える。米国は現在、イラク、アフガニスタンにおける対テロ戦争の戦費を捻出するため、国防支出の見直しを行っており、弾道ミサイル防衛システム開発・配備計画の見直しもあり得る。
なお、我が国も北朝鮮の弾道ミサイル開発に対応して、イージス艦、PAC-3等により構成される、弾道ミサイル防衛システムを導入する予定である。
2019年2月10日 改訂
参考文献
防衛白書 平成22年度版 防衛省
Jane's LAND-BASED AIR DEFENCE 2001-2002 Jane's Information Group
Jane's RADAR AND ELECTRONIC WARFARE SYSTEMS 1999-2000 Jane's Information Group
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-NINE Jane's Information Group
Missile Defense Agency Fiscal Year (FY) 2004/FY
2005 Biennial Budget Estimates Submission Press Release
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