ABL Airborne Laserを組み合わせた略語、意訳すれば「航空機搭載レーザー」
改め
ALTB (Airborne Laser Test Bed:航空機搭載レーザー試験装置)


解説                 総合索引

 弾道ミサイル迎撃用レーザーを搭載したジャンボ・ジェット機。
ブースト・フェーズ(加速段階)の弾道ミサイルに、レーザーを照射して破壊する。制式名称、YAL-1A。
Copyright (c)2002-2008  Weapons School  All rights reserved.
 ABLは、1992年米空軍により開発に着手、競争試作を経て、ボーイング社は主契約者として機体製造とシステム統合を担当、ノースロップ・グラマン社はレーザー発生装置、ロッキード・マーチン社はビーム制御装置を担当する。


 当初の計画では、2008年末に7機のABLを実戦配備する予定であったが、技術的問題と予算不足により計画は大幅に遅れ、予定されていた2号機以降の製造は中止となり、ABLは実戦配備を想定しない
ALTB(Airborne Laser Test Bed:航空機搭載レーザー試験装置)と改称された。

【ブースト・フェイズ迎撃計画の終焉】

 当初の弾道ミサイル防衛計画では、ブースト・フェイズ迎撃兵器として、ABLとKEI (
Kinetic Energy Interceptor:運動エネルギー迎撃体)の配備を予定していた。

 
しかし、技術的問題と開発・調達費用の増大、および運用上の問題などから、ABLは計画縮小、KEIの開発は中止となった。これらはブースト・フェイズ弾道ミサイル迎撃計画の放棄を意味する。

 ALTBは、2010年2月11日、発射された模擬短距離弾道ミサイルを、高出力レーザーにより迎撃する試験に成功した。しかし、2012年2月その役割終え、デビスモンサン基地に保管されている。



 ALTBには、4種類のレーザー装置が搭載されており、その概要を以下に挙げる。

名   称 用   途 レーザーの種類 出  力 備  考
アクティブ測距装置
Active Ranging System
目標までの距離を正確に測定。 炭酸ガス・レーザー 不明 操縦席上部後方にポッド式で搭載
追跡照射レーザー
Track Illuminator Laser
目標を追跡、推進装置の位置を精密に特定 半導体レーザー キロワット級 旋回式レーザー砲塔から発射される。
ビーコン照射レーザー
Beacon Illuminator Laser
大気乱流によるレーザー光の散乱、波面の歪みを補正して、高出力レーザーを推進装置に誘導
高出力レーザー
Chemical Oxygen Iodine Laser
目標を破壊する高出力レーザー 化学酸素ヨウ素レーザー メガワット級 旋回式レーザー砲塔から発射される。

 ALTBは、ボーイング747-400F貨物機をベースとしており、機首部分に口径1.5mの旋回式レーザー砲塔と、これを支える隔壁が設置される。旋回式レーザー砲塔は高出力レーザー、追跡照射レーザー、ビーコン照射レーザーの3種類のレーザーを照射する。

 レーザー砲塔後方は、ビーム制御装置を搭載しており、目標の補足、追跡、照準点
の決定、および高出力レーザーに影響を与える、大気の乱流などによるレーザー波面のひずみ、レーザー光通過経路加熱による光軸ずれ、レーザー光の拡散などを適切に補正する、アダプティブ・オプティクス(能動光学素子)とよばれる反射鏡が取り付けられ、鏡の形状を変化させレーザー波面などの補正を行う
Copyright (c)2002-2008  Weapons School  All rights reserved.
 ビーム制御装置の上方は、操縦席でパイロット2名により操縦される。操縦席上部後方には、目標までの距離などを正確に測定する、炭酸ガス・レーザーを利用したポッド型アクティブ測距装置(
Active Ranging System )を搭載する。

 ビーム制御装置後方は、戦闘管理区画と呼ばれるALTBの中枢部分で、目標補足、識別、交戦順位の決定、レーザー照射による効果判定、発射地点を特定、弾着地点を予想する。この他、LINK16などのデータ・リンクにより目標情報を配信する。

 戦闘管理区画後部には隔壁が設けられている。隔壁より後方は、通常、クルーの立ち入らない、レーザー発生装置区画となっており、胴体の5分の3以上を占有し、レーザーを発生させるための、過酸化水素、塩素などの有害物質も搭載される。
 レーザー発生装置区画内は前部に、高出力レーザーを目標に正確に誘導するための、追跡照射レーザー(Track Illuminator Laser)および、ビーコン照射レーザー(Beacon Illuminator Laser)と呼ばれる、
2基の半導体レーザー発生装置を搭載する。

 レーザー発生区画後方は、6基の
高出力レーザー・モジュールCOIL(Chemical Oxygen Iodine Laser化学酸素ヨウ素レーザー)がある。これは過酸化水素と塩素などを反応させて、酸素を発生させ、この酸素にヨウ素を衝突させると、ヨウ素分子が1.315ミクロンの近赤外線レーザーを発生させる。外部から電力などのエネルギー入力を必要とせず、高い効率で大出力を得られる。Copyright (c)2002-2008  Weapons School  All rights reserved.
 
COILは6基が連動してメガワットクラスの高出力レーザーを発生させる。後部胴体下部にはCOIL作動時に発生する生成物や熱の排出口がある。ABLは、20〜40回分の、高出力レーザー発生用化学燃料を搭載している。
 ここで発生させたレーザーは、光ファイバーを通して、ビーム制御装置に送られ、旋回式レーザー砲塔から照射される。

 この他、機首、尾部に各々1基、胴体左右にそれぞれ2基、合計6基の赤外線探知・追跡装置(IRST:Infrared Search and Track)を搭載して360°全周に渡り、弾道ミサイルなどの赤外線発生源を捜索・探知する。また、与圧装置もクルーの安全と、レーザー発生装置冷却のため強化された。





 ALTBは、大気中の乱流や水蒸気、塵などの影響が少ない、高度12000mを飛行しながら、弾道ミサイルの発射を監視する。


 弾道ミサイルが発射されると、搭載する赤外線探知・追跡装置で目標を探知、アクティブ測距装置により正確な、距離を測定する。
この情報を元に、追跡照射レーザーは、目標を追跡し、加速段階に於ける弾道ミサイルの弱点である、推進装置の位置を精密に特定、ビーコン照射レーザーは、大気乱流による、ゆらぎなどを補正し、高出力レーザーを推進装置部分に誘導する。

 照射された高出力レーザーは、300kmほど先でバスケットボールぐらいの大きさに集束、数秒間同じ場所に照射し続けると、レーザー光のエネルギーにより、弾道ミサイルの外板に穴を開け目標を破壊する。



 高出力レーザーによる、加速段階に於ける弾道ミサイル迎撃の利点は、

  • レーザーは、光と同じ速度で進行するため、迎撃ミサイルなどに比べ、短時間に目標を破壊できる。
  • 目標の速度は比較的遅い。
  • 燃焼するロケット・エンジン(モーター)から大量の赤外線を放射しており、補足は容易である。
  • ブースターを分離してないため、目標サイズが大きい。
  • オトリを展開していないため識別も容易である。
  • 破壊した弾道ミサイルの破片を、敵国領土内に落下させることも可能。
    Copyright (c)2002-2008  Weapons School  All rights reserved.

    また、衛星迎撃兵器(ASAT)としても利用可能である。

 高出力レーザー運用上の制約は以下の通り。

  • 飛行空域の敵防空網を無力化する必要がある。
  • 高出力レーザー発生用、化学燃料は20〜40回分のみ。
  • 高出力レーザーの射程は、およそ400kmと限定される。
  • 弾道ミサイル発射後1〜2分以内に、米国もしくは同盟国を目標とした弾道ミサイルであることを見極め、迎撃しなければならない。
  • レーザー光は、大気のゆらぎなどの影響を受けるため、対象地域の高高度気象データが必要となる。
  • 目標の表面に、断熱コーティグや鏡面加工がされていると、レーザーの効果は減少する。


                           2012年3月 6日改訂


参考文献

パワーレーザーの技術 中井貞夫編著 オーム社
AIRBORNE LASERホームページ
Airborne Laser(ABL):Issues of Congress Updated July9,2007 CRS Report for Congress

Airborne Laser Test Bed bids adieu to Edwards AFB 2/24/2012 U.S.AIR FORCE NEWS
Ballistic Missile Defense Review Report February 2010  DEPARTMENT OF DEFENSE 
Ballistic-missile defense aims to keep its feet on the ground  Mark Hewish Jane's INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW March 2004 Jane's Information Group
DEFENSE ACQUISITIONS Assessments of Selected Weapon Programs March 2010 GAO Report to Congressional Committees United States Government Accountability Office
Jane's Air-Launched Weapons Issue Forty-nine March 2007 Edited by Robert Hewson Jane's Information Group
Missile Defense Agencyホームページ
Missile Defense Agency Fiscal Year 2009(FY09) Budget Estimate Overview  Missile Defense Agency
TESTING Building Confidence MISSILE DEFENSE AGENCY
THE MISSILE DEFENSE PROGRAM 2009-2010 MISSILE DEFENSE AGENCY


Aerospaceトップページへ

Top     Land      Sea     Others

 Copyright (c)2002-2012 Weapons School  All rights reserved.