イージス艦 イージス・システムを搭載する、巡洋艦・駆逐艦などの艦艇の総称。
「イージス」とは、ギリシャ神話に登場する最高神ゼウスが、娘アテナに与えた、あらゆる邪悪を払う盾(胸当)の名称。


解説                   総合索引
       

 「艦隊の盾」と呼ばれるイージス艦の主な任務は、遠距離から同時・多数飛来する航空機や対艦ミサイルから艦隊を守ることにある。その中核は、フェーズド・アレイ・レーダー とスタンダード艦対空ミサイル、これらを一元化して指揮・統制する戦術情報処理システム、および武器管制装置などを併せて、イージス武器システムと呼ぶ。
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 本システムを搭載するのは、米海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、およびアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦である。米海軍以外で本システムを搭載しているのは、アーレイ・バーク級と、ほぼ同等の能力を持つ海上自衛隊こんごう型護衛艦(駆逐艦)と、VLSを48セル、SPG-62を2基にした、スペインのF100フリゲートなどがある。

 米国は、
北朝鮮などによる弾道ミサイル拡散に対応するため、イージス艦に、弾道ミサイル発射の探知、追尾、迎撃などの役割持たせる、イージスBMD計画を進行中で、システムの改良と、大気圏外で弾道ミサイル迎撃可能な、SM-3スタンダード・ミサイルBlockIA(実戦配備型)の配備を2006年より開始した。また、日本も、イージス艦を利用した弾道ミサイル防衛網の導入を決定した。 

 以下、イージス武器システムの主な装備に付いて解説する。

●フェーズド・アレイ・レーダーSPY-1

 イージス艦の外観上の特徴は、艦橋構造物に固定された8角形のレーダー4基を装備する点だ。 各レーダーはおよそ90°の範囲をカバーし、4基で360°全周をカバーする。
 
レーダーのサイズは縦・横3.65m。4100(4480とする説もある)個のフェーズ・シフター(位相変換器)と呼ばれるアレー(アンテナ素子)集合体で構成され、デジタル・コンピューターにより各素子から発射される電波の位相を変化させて、電子ビームを望む方向にスキャンさせる。これをフェーズド・アレイ・レーダーと呼ぶ。

 探知距離は450km以上、200個以上の目標の探知、識別、追尾を、ほぼ同時に行なうことができる。また自艦が発射したスタンダード・ミサイルを追跡、データ・リンクを通じて飛行コース指示も行なう。

  従来型レーダーは、アンテナを機械的に回転させ、360°走査するのに数秒掛かっていた。低空を超音速で飛来する対艦ミサイルでは発見から弾着までの時間は30秒以下と短く、しかも同時に多数飛来すれば、従来型レーダーでは対処困難なのは明らかだ。
 
  これに対してフェーズド・アレイ・レーダーは、電子走査方式を採用しており、数千分の1秒以下で360°走査できるので、同時・多数飛来する超音速対艦ミサイルにも対処可能だ。その上、海面からのクラッターなどに影響され難く、電子妨害にも強い。さらに機械式回転装置がないので、信頼性・整備性も向上する。また、レーダーを構成するフェーズ・シフターの一部が故障もしくは戦闘により破損しても、レーダー機能の大幅な低下はない。ただし、フェーズ・シフターの制御に、高度な処理システムを必要とするため高価である。

●SPG-62レーダー波照射装置

 スタンダード・ミサイルSM-2、ホーミング用レーダー波を目標に向けて照射する装置。照射は目標弾着直前から、弾着までの数秒間だけ使用される。出力は10KW。Mk99射撃統制装置からの指示により作動する。
  SPG-62を4基装備するタイコンディロガ級では最大16目標、3基を持つアーレイ・バーク級では12目標に対処可能とされる。なお、ESSM(発展型シー・スパロー・ミサイル)の誘導にも使用される。

●スタンダード・ミサイルSM-2

 イージス艦で使用される、艦対空スタンダード・ミサイルはSM-2と呼ばれるタイプである。
 慣性航法装置とデータ・リンク装置を搭載しており、母艦から最も効率の良い、飛行コース指示が、フェーズド・アレイ・レーダーを通じて送られる。
 ミサイルは慣性航法装置で目標近くまで自律して飛行する。目標迎撃の数秒前に、イージス艦のSPG-62からレーダー波が照射され、ミサイルは目標にホーミングして撃破する。
 従来のSM-1タイプでは発射から命中するまで、母艦からのレーダー波照射を必要としたので、レーダー波照射装置の数=対処可能目標数であった。
 これに対し、SM-2は母艦からのレーダー波照射は弾着直前の数秒間のみで良いため、交戦可能な目標数が増えた。

VLS Mk41垂直発射装置

  対艦ミサイルによる同時多数攻撃に対応するため、バンカー・ヒル(CG‐52)以降のタイコンデロガ級、およびアーレイ・バーク級イージス艦では、VLSと呼ばれる垂直発射装置が搭載された。
 従来のレール式Mk13・26発射装置のように、ミサイルを弾庫から、複雑な構造のレールに乗せて発射台まで移動させる必要はなく、発射装置・輸送コンテナー兼用のセルと呼ばれる収納ボックスにミサイルは入れられ、セットすれば、そのまま発射装置となる。
 また、従来型発射装置の発射間隔は3−8秒ほどであったが、VLSでは発射間隔1秒と、短時間に多数のミサイルの発射が可能となった。
 なお、VLSはスタンダード・ミサイルだけでなく、トマホーク巡航ミサイル(米海軍イージス艦のみ)、アスロックやESSM(発展型シー・スパロー・ミサイル)にも使用可能だ。

 この他、イージス武器システムには、戦術情報を表示するイージス・ディスプレー・システムMk2や、搭載兵器を統制する武器管制システムMk8、および意志決定システムMk2などのシステムで構成される。

 なお、イージス・システムは、正しくはイージス戦闘システムと言い、先ほど挙げたイージス武器システムの防空機能は、イージス戦闘システムの一部に過ぎない。
  イージス戦闘システムは、レーダー、ソナー、電子戦装置やデータ・リンクを通じて、他の艦船や航空機から戦術情報の収集・処理を行ない、ミサイル、艦載砲、魚雷などの兵器や電子戦装置などにより目標を破壊または無力化する武器システムまでも含めた防空、海上、海中戦闘を一括して指揮・処理するシステムである。

  

                                                                 2010年1月 2日 改訂


性能・諸元

艦艇クラス タイコンデロガ
CG52以降
アーレイ・バーク
Flight IIA DDG79以降
こんごう
満載排水量 t 9763〜10010 9238〜9338 9485
全 長 m 172.5 155.3 161
幅 m 16.8 20.3 21
主  機
合計出力
ガスタービン4基
 8万6千馬力以上
ガスタービン4基
 10万5千馬力
ガスタービン4基
 10万馬力
速力ノット 30+ 30+ 30+
乗  員 342〜359 370 310
主要兵装 VLS 122セル
ハープーン4連装発射機2基
127mm砲2門
CIWS20mm機関砲2門
3連装短魚雷発射管2基
ヘリコプター2機
VLS 96セル
127mm砲1門
CIWS20mm機関砲2門
3連装短魚雷発射管2基
ヘリコプター2機
VLS 90セル
ハープーン4連装発射機2基
127mm砲1門
CIWS20mm機関砲2門
3連装短魚雷発射管2基
価  格 約1200億円 約1000億円 約1200億円

参考文献

アメリカ海軍ハンドブック 世界の艦艇別冊 海人社
改訂版間違いだらけの自衛隊兵器カタログ 日本兵器研究会編 アリアドネ企画
艦載兵器ハンドブック 世界の艦船別冊 海人社
雑誌 世界の艦船 1990.8号 米海軍のウエポン・システムA対空兵器 野木恵一
大図解 世界のミサイル・ロケット兵器 坂本明 グリーンアロー出版社
兵器最先端3太平洋艦隊読売新聞社編 読売新聞社
Jane's RADER AND ELECTRONIC WARFARE SYSTEMS 1999-2000 Jane's Information Groups

Jane's NAVAL WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-SIX Jane's Information Group
THE NAVAL INSTITUTE  GUIDE TO COMBAT  FLEETS of the World 2002-2003 Their Ships, Aircraft & Systems A.D. BAKER III NAVAL INSTITUTE PRESS
U.S Navy Fact File


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