VLS Vertical Launching Systemの頭文字を取った略語。日本語に訳せば垂直発射装置。


解説                     総合索引

  艦艇に搭載されるミサイルを、直立(垂直)状態で格納、発射する弾薬庫兼発射装置。従来の旋回式発射装置より、短時間に多数のミサイルを発射可能で、稼働部品も少ないため信頼性が高い。

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 米海軍では、タイコンディロガ級ミサイル巡洋艦のバンカーヒル(CG 52)以降、アーリーバーク級駆逐艦等に搭載されている。また、オーストラリア、オランダ、韓国、スペイン、台湾、ドイツ、日本、ニュージーランドなど、主な西側諸国の艦艇にも採用されている。

 VLSに使用可能なミサイルは、スタンダード・ミサイルESSM(発展型シー・スパロー・ミサイル)、シー・スパロー・ミサイル等の艦対空ミサイルの他、トマホーク巡航ミサイル、垂直発射型ASROC(対潜水艦ロケット)等も発射可能である。

 従来型のMk13旋回式発射装置は、甲板下の弾薬庫から、ミサイルを移動させ、発射装置に装填後、目標の未来位置方向に発射装置を向けるため、ミサイルの発射間隔は3秒から10秒であった。また、発射装置周囲の艦橋構造物などにより発射方向に制約を受ける。本システムは構造が複雑なため、整備・点検に1日約3時間を要し、装置のどこかに不具合を生じると、弾薬庫にミサイルが残っていても、以後のミサイル発射は不可能となる。
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 これに対し、VLSは、ミサイルを移動させる必要はなく、各装置は独立しており、稼動部品も少ないため信頼性も高く、整備・点検に要する時間は1日30分程度である。万一、故障しても他の装置には影響を及ぼさない。

 ミサイルは垂直に発射後、目標の未来位置方向に飛行経路を変更するため、全方向の目標に対処可能だ。発射間隔も1秒程度と、短時間に多数発射できる。また、甲板上に発射装置が設置されていないためレーダー反射面積を減少させる。

 米海軍のイージス艦などに使用されるVLSは、Mk41GMVLS(Guided Missile Vertical Launching System:誘導ミサイル垂直発射装置)と呼ばれ、甲板に埋め込み、もしくは半埋め込み式で搭載される。
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 Mk41は、ミサイルを格納したキャニスターを装填する8基のセルと、ミサイル発射時の排気炎を上方に放出するガス・マネージメント・システム(耐熱性ダクト)で構成されるモジュールを基本とする。各モジュールは自己診断装置を持ち、通常2時間毎にシステムを点検する。モジュールは組み合わせ可能で、船体サイズにより搭載するモジュール数は異なる。


 

 モジュールは3種類あり概要を以下に挙げる。

Mk-41 GMVLS モジュール一覧
名   称 ストライク(打撃) タクティカル(戦術) セルフディフェンス(個艦防御)
高さm 7.7 6.8 5.3
重量t(装填時) 28.7(SM-2BlockII)推定値 25.6(SM-2BlockII) 不明
格納可能ミサイル
トマホーク巡航ミサイル
SM-3
SM-2BlockIV
SM-2BlockIII
SM-2BlockII
ASROC
ESSM
シー・スパロー
SM-2BlockIII
SM-2BlockII
ASROC
ESSM
シー・スパロー
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ESSM
シー・スパロー

 各セルには装甲ハッチカバーが有り、寒冷地での凍結防止のため電熱装置を内蔵する。この他、電源装置、制御回路、空調、スプリンクラー、注水装置の配管などが装着される。

 ミサイル本体を格納するキャニスターは、一辺が63.5cmの正方形断面を有する波形鋼板製箱形コンテナーで、両端は、ゴム製カバーにて密封される。各キャニスターには、Mk-25を除いて、1発のミサイルが格納されており、全長は格納されるミサイルにより異なる。

 Mk-41 VLSに使用される主なキャニスターを以下に挙げる。

名  称 Mk-13 Mk-14 Mk-15 Mk-21 Mk-22 Mk-25
格納ミサイル SM-2BlockII
または
SM-2BlockIII
トマホーク
巡航ミサイル
ASROC SM-2BlockIV
または
SM-3
シー・スパロー ESSM
4発


 ミサイル発射の際には、指定されたセル・ハッチと、アップテイク・ハッチが開く。ミサイル・キャニスター上部のゴム製カバーはミサイルにより突き破られ、下部ゴム製カバーは、燃焼ガスにより吹き飛ばされる。一旦、下向きに排出された燃焼ガスは、ガス・マネージメント・システムにより上向きに方向を変え、アップテイク・ハッチから艦外に排出される。各ハッチは、ミサイル発射後、VLS内部に残る有毒な燃焼ガスを排出するため10秒間開放された後、閉鎖される。
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 Mk41 VLSのモジュールには、セル3個分のスペースにキャニスター再装填用クレーンを装着した、ストライクダウン・モジュールもある。しかし、洋上での再装填は困難なため、現在は、ほとんど使用されていない。米海軍のアーレイ・バーク級駆逐艦フライト2A以降、海上自衛隊のあたご型ではクレーンを廃止し、ミサイル搭載数を増加させている。

高い信頼性と能力を有するMk41 VLSではあるが、以下の制約もある。

  • Mk41は高さと重量があり、排水量3000トン・クラスの艦艇には装着が困難

  • ミサイルは垂直に発射されるため、目標の未来位置方向に飛行経路を変更する、推力偏向装置が必要となる
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  • ミサイルのロケット・モータをVLS内で点火するため、下向きに排出された燃焼ガスを反転させ、上方向に排出するための耐熱性を有する排気経路が必要となる。

  • VLSの再装填には、クレーン等 設備の整った港に、戻る必要がある


 Mk41を搭載できない艦艇には、軽量・小型のMk-48が使用される。 また、米海軍の次世代駆逐艦DDG-1000ズムウォルト級には、Mk57と呼ばれるVLSを開発中だ。本タイプは4セルを基本構成として、船体側面に設置される。各セルのサイズは大型化され、従来より、大型のミサイルも格納可能となる。また、セルが分散されるため、船体中央部分に設置されていたMk41に比べ、戦闘による損傷でシステム全体が影響を受ける可能性は低くなり、生存性も向上する。欧州ではSYLVER(System Launch VERtical:シルバー)と呼ばれる新型VLSも開発されている。

                            2018年 1月 8日改定


参考文献

ミサイル発射装置の発展・動向 山本紀義 月刊JADI 2001年8月号
Gunner s Mate 1 & C NAVEDTRA 14110 NONRESIDENT TRAINING COURSE U.S Navy
Jane's NAVAL WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-SIX Jane's Information Group
MISSILE LAUNCHERS- Massimo Annati NAVAL FORCES NO.II/2004
Raytheon社ホームページ
SUSTAINING NAVAL SURFACE COMBATANT VERTICAL LAUNCH SYSTEM MUNITIONS DURING JOINT OPERATIONS Michael E.Moore NATIONAL DEFENSE UNIVERSITY JOINT FORCES STAFF COLLEGE JOINT ADVANCED WARFIGHTING SCHOOL
THE NAVAL INSTITUTE  GUIDE TO COMBAT  FLEETS of the World 2002-2003 Their Ships, Aircraft & Systems A.D. BAKER III NAVAL INSTITUTE PRESS
United Defense社ホームページ
U.S Navy Fact File
VERTICAL MISSILE LAUNCHERS A SUCCESS STORY  Guy Stitt NAVAL FORCES 4/2000
VLS:A CHALLENGE MET.AN OLD RULE KEPT CDR Leo J.Scheneder.Jr. USN


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