MLRS Multiple Launch
Rocket Systemの頭文字を取った略語 日本語に訳せば多連装ロケット・システム
解説 総合索引
前線奥深くに位置する、敵機甲部隊、砲兵、指揮・通信施設など広範囲に分散した目標に対し、短時間に大量のロケット弾を撃ち込む自走ロケット発射機を中心とする兵器システム。
MLRSはM110
203mm自走榴弾砲などの後継兵器として1976年、米陸軍により開発が始まり、後にイギリス、イタリア、ドイツ、フランスが共同開発に参加、1983年に部隊配備を開始した。
米国のほか、イギリス、イスラエル、イタリア、オランダ、ギリシャ、デンマーク、ドイツ、トルコ、ノルウェー、バーレーン、フランス、韓国、日本などで、1300輌以上が使用されている多連装ロケット・システムだ。
MLRSは搭載する12発のロケット弾を1分間で発射する。
この1分間に目標地域に投射される弾薬重量はMLRS1輌当たり、1646kg(M26ロケット弾12発)となる。これは、1分当たり92kg(M106榴弾1発)のM110
203mm自走榴弾砲や、172kg(M107榴弾4発)のM109A6自走榴弾砲に比べ、およそ10倍以上の弾薬を短時間に投射できることを意味する。
また、他のロケット兵器の様にコンマ数秒の間隔で連射せず、1発毎に約5秒の間隔をあけるのは、先に発射したロケット弾の噴射炎により生じたLLM(発射装填モジュール)のズレ補正と、ロケット弾相互の弾道干渉を最小限にして、誘導装置を持たないロケット弾の命中精度を上げるためだ。
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湾岸戦争時では1万発以上のロケット弾が発射され、イラク軍砲兵部隊などの撃破に活躍、イラク兵からは「鋼鉄の雨」とおそれられた。
MLRSは下記のシステムにより構成される。
- M270自走発射機
M2ブラッドリー歩兵戦闘車をベースとした、高い機動性を持つM993運搬車輌。車体はアルミニウム合金製で、小型火器や砲弾破片に対して防護力を持つ。
車体前部には3名の乗員を収容するキャブがある。乗員は横一列に座り、左から操縦手、砲手、車長となっている。窓には装甲鎧戸があり、ロケット発射時に閉鎖される。
キャブ内部は、ロケット弾発射時の有毒な排気炎や、生物・化学兵器、放射性物質が入り込まないよう、フィルター付きの与圧装置が装備されている。 以上の装備により、乗員は乗ったまま射撃可能となり、射撃命令からロケット弾発射、移動までの時間が大幅に短縮され、生存性も向上した。
キャブ後方は出力500馬力のターボチャージ付きディーゼルエンジンと、変速装置があり、車体前部の駆動輪に動力を伝達する。
履帯は車体前部の駆動輪、6個の転輪と車体後部の誘導輪、および4個の上部支持輪により保持される。
サスペンションは油圧ダンパーとトーションバー・スプリングを組合わせたタイプである。
ロケット弾発射時にはサスペンションをロックして、ロケット弾道のブレを防止する。
車体後部には砲塔リングに搭載されたM269LLM(Launcher
Loader Module発射装填モジュール)があり、LP(Launch
Pod発射ポット)を2基装填する。LLMは左右194度、仰俯角0から60度までの範囲で旋回・仰俯角する。またLPを装填するためホイストを内蔵しており、乗員1名でも3分以内に再装填を完了できる。
M270発射機の一部には射程140km以上のATACMS(Army
Tactical Missile
System陸軍戦術ミサイル・システム)を使用するため車体表面の耐熱装備追加と、FCSの処理能力を向上させたバージョン6と呼ばれるタイプも存在する。
さらに、現用のM270発射機にGPS位置決定・航法装置を追加、FCSおよび油圧装置などを改良して反応時間、整備性を向上させたM270A1への改良計画も進行中だ。
- FCS(Fire
Control System射撃統制装置)
M270自走発射機のキャブ内部、砲手席前方にFCSコントロール・パネルがあり、指揮所からの指令を秘話装置付きFMデジタル通信機で受け取り、LLM(発射装填モジュール)の方位角・仰俯角、信管設定やロケット弾発射を制御する。
また、ジャイロコンパスを内蔵するSRP(Stabilization Reference
Package安定参照パッケージ)とエンジン出力軸からの信号などを検出するPDS(Position Determining
System位置決定システム)によりM270発射機の方位、高度、傾斜、位置などを計測する。
- LP(Launch Pod 発射ポッド)
LLM(発射装填モジュール)に2基装填される6発入りロケット弾ポッド。
装填時間を短縮するため、円筒形ロケット弾コンテナ3本を2段重ねにして、これをアルミフレームで支える。長さ4.04m、幅1.05m、高さ0.84m、重量2270kg。
ロケット弾コンテナはグラスファイバー製で、発射の際、弾体に回転を与えるため、内部に2本の螺旋レールがある。また、適切な発射速度を確保するため、推力が5625kgに達するまで、M26はコンテナー内部にピンで固定される。推力が5625kgに達すると、ピンが折れ、ロケット弾は撃ちだされる。
ロケット弾は工場で組立て・検査後、コンテナに密封される。以後10年間、整備・検査不要で保存可能だ。
最も基本的な弾種はM26ロケット弾である。このほか射程延長型、AT-2対戦車地雷を搭載するタイプや、GMLRS、ATACMSなど様々な弾種を発射できる。
- 米陸軍では、この他にM985HEMTT(Heavy
Expanded Mobility Tactical
Truck
重拡張高機動戦術トラック)などの弾薬補給車輌と、指揮・統制・通信機能などもMLRSを構成するシステムとしている。
米陸軍のMLRS大隊は軍団の指揮下にあり、必要に応じ中隊規模で機甲・機械化歩兵師団などの砲兵部隊への増強として使用される。MLRS砲兵中隊の基本構成は、MLRS
9輌と本部管理中隊などで構成される。
大きな威力を持つMLRSだが運用上の制約は以下の通り
- 誘導装置のないロケット弾は風などの影響を受けやすい。
- 10km以内の目標に対して使用する場合、不発弾の発生率が高く、友軍の進撃を妨げ、民間人にも被害を与える可能性がある。
- 発射後、再装填までに時間を要する。
- ロケット弾、発射時の音、煙、炎は敵から発見され易い。発射後は直ちに移動しないと、敵砲兵から反撃を受ける。
- 榴弾砲に比べ弾着の正確さ、即応性および持続性で劣る。
- 空輸にはC-141以上の大型輸送機を必要とする。
冷戦終結後、海外地域への迅速な部隊展開の必要性が認識されHIMARS(ハイマースと読む
High-Mobility Artilley Rocket
System高機動砲兵ロケット・システム)を開発中である。
これは、6輪駆動のFMTV(Family
of Military Tactical
Vehicles軍用戦術車輌ファミリー)5トン トラックの車体に装甲キャブ、FCS(射撃統制装置)、発射装置などを搭載したタイプで、LP(発射ポッド)は1基のみ。搭載するロケット弾は6発とMLRSの半分になるが、軽量・小型化されC-130中型戦術輸送機でも輸送可能となる。また自走による長距離移動も可能で、生産・整備維持費も安い。
2008年9月23日改訂
性能・諸元
M270自走発射機
重量:25191kg(ロケット弾搭載時)
全長:6.97m
全高:2.61m(走行時)
全幅:2.97m(走行時)
乗員:3名
最大速度:64km
航続距離:483km
エンジン:カミンズVTA-903ターボチャージ・ディーゼル 500馬力
メーカー:ロッキードマーチン社他
参考文献
世界の軍用車輌(2)装軌式自走砲:1946〜2000 デルタ出版
世界の最新兵器カタログ 陸軍編 日本兵器研究会編 アリアドネ企画
大図解 世界のミサイル・ロケット兵器 坂本明 グリーンアロー出版社
パワーアップするMLRS 軍事情報研究会
雑誌 軍事研究 ジャパンミリタリーレビュー社
湾岸戦争に学ぶ 現代軍事作戦&テクノロジーVol.16 軍事情報調査会 雑誌 軍事研究 99年11月号 ジャパンミリタリーレビュー社
兵器の常識・非常識 上巻 陸軍・海軍兵器編 江畑謙介 並木書房
陸上自衛隊ホームページ
AFV94 1994 世界の戦車年鑑 戦車マガジン社
ATACMS 永澤武壽
雑誌 軍事研究 98年2月号 ジャパンミリタリーレビュー社
RAM戦場のHIMARS 高井三郎 雑誌 軍事研究 01年7月号 ジャパンミリタリーレビュー社
FIELD MANUAL NO. 6-60 Tactics, Techniques, and Procedures for MULTIPLE LAUNCH ROCKET SYSTEM
(MLRS) OPERATIONS U.S Army
Jane's AMMUNITION HANDBOOK 1997−98Terry J Gander
Jane's Information Group
Jane's ARMOUR AND ARTILLERY 1997-98Christopher F Foss
Jane's
Information Group
Lockheed Martin社ホームページ
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