ASAT エイサットと読む Anti-Satellite を組み合わせた造語。意訳すれば衛星攻撃兵器。


解説                     総合索引

 衛星を破壊または、無力化するための兵器。なお、本稿では「人工衛星」を略して「衛星」と表記する。
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 軍事衛星は現代戦において、欠くことのできない要素で、弾道ミサイル早期警戒、偵察、電子情報収集、気象観測、通信、航法など、幅広い分野で利用されている。また、民間で使用されているインテルサットなどの商業用通信衛星や、イコノスなどの商業用画像衛星も軍事利用されている。これらの衛星を破壊もしくは、無力化されると、軍隊の能力は大幅に低下する。一部の軍事衛星は、緊急事態に備えて、予備が用意されている。しかし、その数は限定されており、代わりの衛星の打ち上げには、通常、数週間以上の時間を要する。


 衛星攻撃兵器の歴史は古く、米国では1959年に、B-47爆撃機から発射されるボルド・オライオン・ミサイルによる衛星攻撃試験を実施している。地上配備型としては、1963年に迎撃ミサイル、ナイキ・ゼウス、1964年には中距離弾道弾ミサイル、ソアを配備した。旧ソ連も1968年から弾道ミサイルを利用した衛星攻撃試験を行っている。

 空気抵抗がほとんど無く、無重力の宇宙空間の飛行を、前提に作られた衛星の構造は、航空機や弾道ミサイルに比べ、もろい。また、衛星の飛行速度は高度によって異なるが、高度1000km以下の場合、秒速7km(音速の20倍)を超える速度で飛行している。例え小さなボルト1本でも衝突すれば、衛星本体は持ちこたえても、搭載センサーの故障や、姿勢制御不能となる場合もある。

 画像偵察衛星に搭載される、赤外線もしくは光学センサーは高感度なため、衛星自体を破壊できなくとも、レーザー光照射により、センサーを飽和させ、機能を喪失させることは比較的容易である。1997・8年には米国の光学画像偵察衛星が、ロシア上空でレーザー光の照射を受け、一時盲目状態となり観測を妨害されている。また、中国上空でも同様の事件が発生している。
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 衛星の飛行高度はその任務に応じて決められる。詳細な観測を要求される偵察衛星は、主に高度約200kmから900kmを飛行している。これに対して、カーナビでおなじみのGPS衛星は高度約2万km。弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星や気象観測などは、さらに上空の高度約3万6千kmの静止軌道である。

 現実に、ミサイルで直接迎撃可能な衛星は、低高度地球軌道(LEO:Low Earth Orbit)と呼ばれる高度1500km以下の軌道であり、さらに高い高度を飛行するGPS衛星や、静止衛星の攻撃には、大型多段式ロケットと、衛星攻撃兵器を所定の軌道に載せる、高度な追跡・制御技術を必要とする。核兵器の電磁パルスにより、衛星の機能を麻痺させる方法もあるが、敵の衛星だけでなく、味方の衛星、通信およびレーダーなども麻痺状態となる。また核兵器の使用は、紛争をエスカレートさせる。
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 ミサイルやレーザーなどで直接攻撃する以外にも、衛星を無力化する方法はある。衛星の運用には、地上局との間の、データ・リンクが不可欠である。衛星からの情報は、電波で地上局に伝えられ、地上局からは、偵察目標指示などが衛星に送られる。また衛星の軌道および姿勢は、月や太陽からの引力により変化するため、これを監視、補正する必要がある。これらのデータ・リンクへの通信妨害は、最も安価で効果的な方法である。 ただし、データ・リンクに使用される、周波数等の電波特性および、暗号を解読する必要がある。

 
衛星攻撃の主な方法を下記に挙げる。

攻撃方法 特  徴 長  所 短  所 備  考
爆風破片弾頭 多量の小型破片により、衛星を破壊または無力化 加害範囲は大
誘導誤差の許容範囲が大きい
小型破片のため威力は小さいが、構造の脆弱な衛星には有効

大量の破片が宇宙ゴミとなり、他の衛星の脅威となる


地上・海上配備型、空中配備型、宇宙配備型
運動エネルギー弾頭 衛星に体当たりして、破壊または無力化 衛星の完全破壊も可能 高い精度の誘導技術を必要とする

衛星破壊後に、大量の破片が宇宙ゴミとなり、他の衛星の脅威となる
地上・海上配備型、空中配備型、宇宙配備型
レ ー ザ ー レーザ光の熱エネルギーにより、衛星を破壊、またはセンサーを無力化Copyright (c)2007  Weapons School  All rights reserved. 光とほぼ同じ早さで攻撃可能

観測を妨害するだけなら低出力レーザーでも使用可能

宇宙配備型は地上配備型に比べ低出力でも有効

破片を発生させないため、宇宙ゴミの発生は少ない
地上・海上、空中配備型の場合、衛星を破壊するには出力100万ワット以上の大出力レーザーが必要

大気によるレーザー光の屈折を補正する必要あり

雲がある場合は、使用不可
地上・海上配備型、空中配備型、宇宙配備型
核 兵 器 熱線、電磁パルスにより目標を無力化 熱線でも数百m以上
、電磁パルスは数百km以上に影響あり
電磁パルスにより味方のレーダー、指揮・通信機能も麻痺

紛争をエスカレートさせる可能性大
地上・海上配備型、宇宙配備型

宇宙空間への核兵器の配備は宇宙条約に違反する。
電波妨害 衛星と地上局間のデータ・リンクを妨害 最も安価で効果的 データ・リンクに使用される、周波数などの電波特性を把握する必要あり  
地上局の破壊 衛星を追跡・管制する地上局を破壊する 衛星からの情報を入手不能に

衛星の追跡・管制も不可能となる
核兵器、精密誘導兵器、もしくは地上部隊の投入が必要 Copyright (c)2007  Weapons School  All rights reserved. 
衛星打上の阻止 衛星組立・打上施設を破壊して、衛星の補充を不可能にする 数カ所に限定されるため攻撃は容易      ↓  

 米国が現在開発中の、弾道ミサイル防衛システムである、ABL(航空機搭載レーザー)、GBI(地上配備型迎撃体)、SM−3などは衛星攻撃兵器にも転用可能である。

                                                                   
2007年2月16日制作


参考文献

宇宙航空研究開発機構JAXAホームページ
宇宙航行の理論と技術 河崎俊夫編著 地人書簡
最新の米国大型精密偵察衛星  岩狭源晴 軍事研究1999年4月号 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー
ザ・スペースエイジ 2 天空のハイテク・ウォーズ NHKサイエンススペシャル 日本放送出版協会
新・戦争のテクノロジー ジェイムズ・F・ダニガン 岡芳輝訳 河出書房新社
世界の「画像偵察衛星」を一挙解説 岩狭源晴 軍事研究2003年8月号 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー
ミサイル事典 小都 元 株式会社新紀元社
Anti-Satellite Weapons, Countermeasures,and Arms Control September 1985 U.S. Congress, office of Technology Assessment
AN ASSESSMENT OF CHINA'S ANTI-SATELLITE AND SPACE WARFARE PROGRAMS, POLICIES AND DOCTRINES Prepared for the U.S.-China Economic and Security Review Commission by Michael P. Pillsbury, Ph.D. 
Jane's STRATEGIC WEAPON SYSTEMS ISSUE THIRTY-NINE Jane's Information Group

Space Primer August 2003  Air University  U.S Air Force
Space Weapons or Space Arms Control? RICHARD L. GARWIN Philip D. Reed Senior Fellow for Science and Technology Council on Foreign Relations, New York and IBM Fellow Emeritus

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