HYDRA70(ハイドラと読む)70mmロケット弾システムの名称。


解説.                            総合索引


 ヘリコプターなどから発射される70mm(2.75インチ)ロケット弾および発射装置を含めた、兵器システムの名称。対地および対空攻撃などに使用される。

 従来、70mmロケット弾は、対地攻撃や爆撃機迎撃用としても使用されていたが、クラスター爆弾や迎撃ミサイルなどの発達により、現在では主に、攻撃ヘリコプターの武装として使用される。


 無誘導のためミサイルに比べ攻撃精度は劣る。しかし、軽量、安価で、複数を同時発射して、広い範囲に分散する目標を短時間で撃破する地域制圧兵器だ。C
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 HYDRA70は米海軍により、Mk4(高性能航空機用翼安定型)、Mk40(ヘリコプター用スピン安定型)FFAR(Folding Fin Aircraft Rocket:翼折畳み式航空機搭載ロケット弾)の後継として1985年に全規模量産を開始した。


 米国、イギリス、タイ、トルコ、ドイツなどで使用される他、カナダ、ブラジルでは同様のタイプが生産されている。我国でも陸上自衛隊が攻撃ヘリコプターAH-1に使用している。

 本稿では米陸軍で使用される、HYDRA70ロケット弾および、発射装置について解説する。

●HYDRA70ロケット弾はモジュラー構造で、信管、弾頭とロケット・モーターに区分される。
  • 信管 
    弾頭の起爆を制御する。着発信管M423、近接信管M429、子弾放出用複動信管M433など多種類のタイプがあり、用途に応じて使用される。

  • 弾頭 
    高性能炸薬、発煙弾、照明弾、子弾、訓練弾などがありロケット・モーター前部にネジで取り付けられる。

    米陸軍で使用されるHYDRA70の代表的な弾頭を以下に挙げる。

    名称 M151 M156 M229 M274
    弾種 高性能炸薬 発煙弾 高性能炸薬 発煙弾
    使用目的 対人・対物攻撃 発煙・発火・識別 対人・対物攻撃 訓練
    信管 M423、M429、M433 M423、M429 M423、M429、M433 M423改良一体型
    備考 殺傷範囲50m以上
    コンポジションB4炸薬1.04kg
      M151弾頭を大型化
    コンポジションB4炸薬2.17kg
    M151の弾道特性と一致
    弾着地点を閃光・音・煙で表示
    生産中止

     

    名称 M255E1 M257 M261 M267
    弾種 フィレチェット 照明弾 M73多目的子弾9個 M75発煙子弾3個+不活性模擬子弾6個
    使用目的 空対空・対物・対人攻撃 夜間照明 対装甲・対物・対人攻撃 訓練
    信管 M439 M332 M439 M231
    備考 小型ダーツ1180個 100万カンデラの照明を100秒以上 成形炸薬を内蔵
    子弾、殺傷範囲13m以上
    M261の弾道特性と一致

     

  • ロケット・モーター

     全長1.06m、弾体直径0.07m、重量6.1kg、Mk66と呼ばれる。先端に弾頭を取り付けるネジ部、中央部分はダブルベース固体推進薬と点火装置を内蔵する。最後部は噴射ノズルで、弾体に回転を与えるため、溝が切られており、弾体を発射装置内部で毎分600回転させ、発射直後、低速時の弾道を安定させる。外側には弧状断面を持つ3枚の取り巻き型翼が収納され、発射後展開して空力により弾体を毎分2100回転させ弾道の安定を図る。

     なお現在使用されているロケット・モーターは米陸軍はMk66MOD3、空軍、海軍ではMk66MOD2と呼ばれるタイプを使用している。さらに新型のMk66MOD4では静電気やレーダー・無線機などから放射される電磁波によるロケット・モーターの不時発射を防止する機能が強化されている。

     HYDRA70ロケット弾は信管、弾頭、ロケット・モーターが組み付けられた完成品として出荷され、前線で梱包を解いて、発射装置に装填される。

●発射装置

  • アルミニウム製の円筒形で再使用可能、従来型より軽量である。7発収容のM260と、19発収容のM261がある。
    名   称 M260 M261
    収容弾数 19
    全  長m 1.68
    直  径m 0.25 0.4
    重  量kg 15.5 39.7

     HYDRA70ロケット弾は発射装置前部から人力により装填される。発射装置前面には子弾信管設定コネクター端子、後端にはロケット・モーター点火装置があり、懸架装置の間隔は356mm(14インチ)である。

 HYDRA70ロケット弾はコックピットにあるRMS(Rocket Management Systemロケット管理システム)により発射するランチャー、ロケット弾数や信管設定を行い、火器管制システムからのデータ-により発射諸元を計算して発射する。

 
ロケット・モーターに点火すると弾体が毎分600回転する。約1秒間でロケット・モーターは燃焼を終了、この時点での速度は毎秒740m(およそマッハ2)に達し、展開された翼により毎分2100回転して弾道を安定させる。以後は与えられた運動エネルギーにより弾道飛行して目標に向かう、M423信管は着弾と同時に弾頭を起爆、破片を周囲に放出する。1発辺りの破壊力は通常爆弾に比べ小さいが、複数のロケット弾を同時発射することで広範囲を一気に制圧できる。

HYDRA70運用上の制約は以下の通り

  • 無誘導のため風などの影響を受けやすい。
  • 発射時にノズルから点火装置などの破片が放出されるため、航空機の空気取り入れ口に、破片が吸い込まれないよう対策する必要がある。
  • 発射時の炎・煙は搭載航空機の位置を敵に探知されやすい。

 なお、HYDRA70には、セミ・アクティブ・レーザー・シーカーを追加したAPKWSも開発されている。

                                      2011年8月10日改訂


性能・諸元

HYDRA70ロケット弾 M151HE弾頭、M423信管装着時
全  長:1.38m
弾体直径:0.07m
翼  幅:0.18m
射  程:8800m以上
重  量:10.4kg
弾  頭:コンポジションB4炸薬1.04kg内蔵
メーカー:ゼネラル・ダイナミクス社他


参考文献

攻撃ヘリのすべて 江畑謙介 原書房
地上戦・先進ミサイル 軍事情報研究会 雑誌軍事研究 株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー
AH-1コブラ、AH-64アパッチ 世界の傑作機No34 株式会社文林堂
AH-64アパッチ 青木謙知 航空ファン イラストレイテッド99-4 No105  文林堂
U・S・ウエポン・ハンドブック 宮本勲編著 原書房
Federation of American Scientistsホームページ
FIELD MANUAL No. 1-112 ATTACK HELICOPTER OPERATIONS U.S Army
FIELD MANUAL No. 1-140  HELICOPTER GUNNERY U.S Army
Jane's AIR-LUNCHED WEAPONS Jane's Information Groups
GENERAL DYNAMICS社ホームページ
Guidance systems for 70mm rockets attract new attention Jane's INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW  October 2002 Jane's Information Group
Guided Hydra-70 testing Jane's INTERNATIONAL DEFENSE REVIEW  November 2002 Jane's Information Group
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