信管 弾薬の作動、安全に関わる最も重要な装置。
解説 総合索引
弾薬の種類・用途に応じて、希望する時期、場所で、弾薬を作動させるための火薬類を内蔵する装置。
信管は砲弾、ミサイル、爆弾、地雷などに使用されるが、本稿では155mm榴弾に使用される砲弾用信管について解説する。
信管に求められる最も重要な機能は作動の確実さと、高い安全性である。Copyright
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砲弾用信管は、取扱いミスによる落下、輸送中の事故による衝撃、火災などで誤作動しないのはもちろん、発射時にかかる2万G以上の加速度、旋転による遠心力など、過酷な使用条件に耐え、砲口から離脱した後も、所定の距離(100m以上)を飛翔するまでは、砲弾を炸裂させないことが、最重要の課題となる。
このように厳しく作動しないことを求められていた信管が、目標に到達すると一転して、確実に作動することを要求される。
信管の安全性に付いて、人命に関わる誤作動発生確率を100万分の1以下にすることを求めており、最低、2つの異なる外力で解除される安全装置を備えていなければならない。
砲弾用信管では、発射時の加速度および、旋転による遠心力を利用して安全装置を解除する。
砲弾用信管は、砲弾頭部に取付けられる弾頭信管と呼ばれるタイプで、主な機能および種類を以下に挙げる。
種 類 |
作動時間 |
機 能 |
特 徴 |
使用弾種 |
備 考 |
着発 |
瞬発
SQ |
0.0001
〜
0.001秒 |
目標に衝突すると瞬時に作動 |
最も使用頻度が高い |
榴弾
発煙弾 |
弾着の衝撃により撃針が起爆筒を突き起爆する |
延期
D |
0.01
〜
0.15秒 |
目標内部に突入してから作動する。 |
強固な構造物や塹壕などを内部から破壊する。 |
榴弾 |
|
特殊 |
近接
PROX |
― |
地表から一定の高さで作動 |
先端部分に電波送受信機を持つ。 |
榴弾 |
小型の電波送受信機および信号処理装置を内蔵、反射電波の強度で起爆 |
コンクリート貫通
CP |
無延期
延期 |
コンクリート構造物の破壊 |
クロムモリブデン製信管体を使用 |
榴弾 |
|
時限
MT/ET |
200秒まで可変 |
発射前に設定された時間が経過すると作動 |
電子式が主流 |
榴弾
カーゴ弾
照明弾
発煙弾 |
発射後、一定時間経過後作動 |
二動 |
瞬発・延期 |
安価で使用頻度が高い |
榴弾
発煙弾 |
|
複動 |
時限、瞬発 |
瞬発は時限のバックアップ |
榴弾
カーゴ弾
照明弾 |
|
多機能(多選択肢)
MOAF
(Multi-Option
Fuze for Artillery) |
瞬発
延期
時限
近接 |
信管の種類を減らして補給体系を簡略化 |
榴弾
発煙弾
照明弾
カーゴ弾 |
生産量増加中 |
信管は通常、信管本体と伝爆薬筒で構成される。伝爆薬筒は信管本体下部に取付けた状態で供給される。
伝爆薬筒は、榴弾に内蔵されるTNTなどの炸薬を起爆させる役割を持つ。炸薬には爆発力は大きいが、安全のため衝撃、熱などに鈍感な爆薬が使用されており、信管本体に内蔵する少量火薬の爆発では起爆しない。このためテトリルやRDXなどの伝爆薬を介して、衝撃波や高速破片を発生させ、炸薬を起爆する。
なお、伝爆薬筒は炸薬を起爆するだけでなく、砲弾が砲口から安全な距離を飛翔するまで安全装置を解除しない機能も併せ持つ。
【砲弾用信管の構造】
弾砲用信管としては最も一般的な瞬発・延期機能を持つ、二動信管の構造に付いて解説する。
信管本体の構造は、先端部分に瞬発用撃針、この直後に少量で鋭敏な火薬を内蔵する突刺起爆筒を持つ。
この下に炎管が組付けられ、起爆筒より発した炎を、伝爆薬筒に伝達する火道を形成する。この中間に切換栓とよばれる瞬発・延期切換装置を持ち、遮断子と連動して、火道を遮断し安全装置としても機能する。
信管本体下部には、延期用起爆機構を有し、撃針、雷管、延期薬を内蔵する。外周には伝爆薬筒を取付ける1.7インチネジが切られいる。
伝爆薬筒は上部外径に砲弾取付け2インチ・ネジ、内径には信管取付け用1.7インチ・ネジが切られている。内部には起爆筒を組み込んだロータがあり、後退ピンで導爆薬から外れた位置に固定され、安全を確保している。下部には導爆薬とRDXなどの伝爆薬を内蔵する。
155mm砲弾は、信管無しの状態で供給され、砲側で用途に応じた機能を持つ信管を取付ける。砲弾には信管孔とよばれる2インチ・ネジを切った取付け部分があり、専用レンチを使って装着され、指揮所から指示により信管を設定後、発射される。
発射時の加速度で、伝爆薬筒内のロータを固定していた、後退ピンが外れ、ロータは砲弾の旋転により回転して内蔵する起爆筒、導爆薬、伝爆薬は一線となる。この間に砲弾は砲口から150mほど飛翔する。
信管本体の火道を遮断していた遮断子も遠心力で後退し火道を開け、安全装置は解除される。
目標に着弾した衝撃で撃針が起爆筒を突刺し、起爆薬が発火、その炎は火道を通り、伝爆薬筒の起爆薬、導爆薬、伝爆薬を次々に爆発させ、衝撃波と高速破片を放出、砲弾の炸薬を起爆する。
延期を選択した場合、火道は遮断子により遮断されたままとなるので、延期用撃針が、着弾の衝撃で雷管を突刺し発火、延期薬を経由、約0.05秒遅れで伝爆薬筒を作動させる。
米軍が使用する主な砲弾用信管を以下に挙げる。
制式名称 |
機能 |
備考 |
M557 |
瞬発
延期 |
延期は0.05秒
|
M572 |
↑ |
↑ |
M739A1 |
↑ |
↑ |
M564 |
時限
瞬発 |
0〜100秒
|
M565 |
時限 |
発煙弾・照明弾に使用
0〜100秒 |
M577 |
時限
瞬発 |
子弾放出用
2〜200秒 |
M762 |
時限 |
子弾放出用
0.5〜199.9秒 |
M767 |
↑ |
HE弾用
0.5〜199.9秒 |
M732A2 |
近接
|
地上7mで起爆
バックアップとして着発起爆 |
M78 |
コンクリート貫通 |
鉄筋コンクリート建造物の破壊
クロム・モリブデン鋼の頭部を持つ
0.025秒延期
無延期タイプも有り |
M773 |
瞬発
延期
時限
近接 |
多機能信管Multi-Option
Fuze for Artillery(MOFA) |
M782 |
↑ |
多機能信管Multi-OptionFuze
for Artillery(MOFA)
誘導電流による設定のみ(手動設定不可) |
なお、155mm榴弾砲用信管には105mm、175mm、203mm榴弾砲および一部重迫撃砲弾用としても互換性を有するものがある
2009年11月 2日改訂
性能・諸元
M773 MOFA信管
全 長:151.6mm
最 大 径:61.4mm
重 量:884.5g(最大)
機 能:瞬発、延期、時限、近接
耐加速度・遠心力:3万g、3万回転/分
保存期間:20年(温度・湿度制御環境)
参考文献
エネルギー物質ハンドブック 社団法人 火薬学会/編 共立出版株式会社
火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)弾道学研究会編 防衛技術協会
火薬のはなし 久保田 波之介著 日刊工業新聞社
自衛隊装備年鑑2002−2003朝雲新聞社編集局 朝雲新聞社
大図解 最新兵器戦闘マニュアル 坂本明 グリーンアロー出版
日本砲兵史 陸上自衛隊 富士学校特科会 原書房
日本の防衛戦力1陸上自衛隊 読売新聞社編 読売新聞社
砲弾用信管の変遷(その1・2) 川口伸 防衛技術1989年7月・8月号
砲兵−その役割と運用−亀井浩太郎 PANZER1998年3月号
Alliant Techsystems社ホームページ
AMMUNITION FOR THE LAND BATTLE P R Courtney-Green Brassey's
EXPLOSIVES,PROPELLANTS & PYROTECHNICS A Bailey & S G Murray
Brassey's
FIELD MANUAL No. 6-40 Tactics, Techniques, and Procedures for THE FIELD
ARTILLERY MANUAL CANNON GUNNERY U.S Army
Jane's AMMUNITION HANDBOOK 1997−98Terry J Gander
Jane's Information Group
MARINE CORPS WARFIGHTING PUBLICATION 3-16.1 Marine Artillery Operations
U.S. Marine Corps
MILITARY BALLISTICS G M Moss他 Brassey's
WARMACHINES No1 MILITARY PHOTO FILE M108-M109-M109A1/A2 SELF PROPELLED ARTILLERY
VEHICLE Francois VERLINDEN & Willy PEETERS VERLINDEN PUBLICATIONS
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